「本当にこれで行けるんですか?」
「ああ。オフロードバイクっていう、道が悪い所に強い二輪車だな。俺も向こうでこいつに乗っていないから何とも言えないけど、乗り方は知っている」
友達の原付に乗ったことがある程度だけど、問題ないだろう。
「これを被ってくれ。後、どこかの兵士などに止められそうになったら逃げるからそのつもりでな」
「逃避行ですぅっ!任せて下さいですっ!」
いや、何も任せないよ?それに逃避行じゃなくて里帰りだからな?
俺はエリーの案内に従ってバイクを走らせた。
結構気持ちがいいモノだな。バイクに乗る人の気持ちが全く理解出来なかったけど、今ならなんとなくわかる。流石に日本の夏は嫌だけど。
ちなみに今の格好はかなりの防寒対策をしている。エリーに至ってはモコモコだ。
俺たちの旅は終わった。
そりゃバイクで移動していたらすぐだよな。頑張って飛ばせば24時間以内にこの国の端までいけそうだもん。
実際の広さを知らんけど。
村には夕方に着いた。バイクは近くに停めて転移で屋敷まで運んでおく。
「お母さーん!帰ったよー」
ミランの時は少し驚いたけど、エリーの対応には驚かなかった。なんか想像つくし。
「エリー!?あなたどうしたのよ!?」
家でもエリーって呼ばれてるのかよ。
「今日は手紙の返事に来たんだよ。後、こちらが私がお世話になっているセイさん」
「セイです。商人と冒険者をしています。娘さんには色々と助けてもらっています」
エリーの母ちゃん美人だ…まぁエリーがこんだけの美少女だ。
遺伝子が悪戯していなかったらその親も美人なのは当たり前か。
「貴方が…娘がお世話になりました。なんでも貴方のお陰で全てうまく行ったとか。感謝してもしきれません」
「お母さん。セイさんはそういうの苦手だからそれくらいにして。お父さんは?」
助かった。特に何もしてないのに感謝されるのは居心地が悪いからな。
「お父さんもいるわよ。セイさん。狭い家ですがどうぞおあがり下さい」
「失礼します」
エリーの家は木造建築の平家だ。
家の中へと入るが物は少ない。
確かにこれじゃあ刺激はないから噂話くらいしかすることがないだろうな。
「あなた。お客さまですよ」
「セイと言います。お嬢さんにはお世話になっています。これは茶菓子です。それとこれはお父様に」
そう言って俺はクッキーとお酒を渡した。
「貴方が…娘がお世話になっております。この様な高価なものを…」
「お父さん。セイさんはお金持ちだから気にせず受け取ってね。そのクッキーは店で売ってるものだよ」
エリー…まるで聖奈さんみたいなことを……
不本意ながら、エリーが順調に聖奈さんに毒されていることを確認した。
「それで今日来たのは手紙の件です。エリーのご両親には是非ウチで働いてもらいたいのですが…」
俺は本題を切り出した。晩飯までには帰りたいからな。
俺の説明に向こうが質問をしたりして話は進む。
「その条件であればこちらとしては有り難いですが…」
「お父さん。チャンスだよ!私もセーナさんって人に言われたけど、チャンスは掴まないと逃したら二度と来ないよ。そもそも一度でもチャンスが来ることって幸運なことなんだから」
エリーの説得もありエリーの両親は無事に王都で働いてくれることになった。
村ではもう話しかけてくる人もいないらしい……
こえーな。村社会。
引っ越しは明後日することになった。
もちろん俺が転移させる。力のない人の旅は=命懸けだからな。
この後、魔法のことも伝えたら大層驚かれたが、エリーも出来ると言えばいきなりテンションが下がった。
いや、この世界では多分レアだぞ?
地球ではレアどころかUMA(未確認生物)扱いだぞ!
もちろんエリーの両親に異世界(地球)の話は伝えていない。
不必要に知らせることはないからな。
特に問題はないので、俺達は家へ帰った。帰りは転移で楽ちんだ。
「やったね!これでエリーちゃんもご家族に気兼ねなく会えるね!」
「ありがとうございます。やっと父と母に楽をさせてあげられます」
いや、楽ではないんじゃないかな?
お金や生活面では困らないだろうけど……
「後は王都の子供達に教えるだけだね!」
「任せて下さい!」
ミラン先生はやる気だ。可愛いから任せよう。
「父と母もある程度は計算が出来ます」
「まぁそっちはエリーだな。俺達が教えるよりリラックスして覚えてくれるだろう」
「頑張るですっ!!」
エリーは空回りするから程々にな……
翌日の班割りは王都に聖奈&ミラン組、水都には誰もいかずエリーの両親の引っ越しの手伝いに俺&エリー組。
エリーの両親は荷車を持っていたのでそれに思い出の品など必要な物だけを積んで準備をしてもらった。
引越し先の家は恐らく中古だが、家具は新しい物ばかりだ。よって必要な荷物は衣類などの小物だけ。
引越し準備の間に俺がしたことは、要らないものを処分するということ。
処分方法は極めて簡単。例の隠蔽した森に持っていき、火をつけるだけの簡単なお仕事。
この世界の物は殆ど綺麗に燃える。ダイオキシンなどもない。と思う……
聖奈さんにはエリーの両親の家を頼んでいる。大豪邸とはいかないと思うけど、これからお世話になるんだ。奮発してくれることと思う。
そして夜になった。
「じゃあこれまでに掛かった費用を発表するね!」
我が家の料理番兼保育士さん兼(変態兼)会計士の聖奈さんが話し始めた。
「あんまり聞きたくないな」
店も賃貸じゃなく、購入したからかなりの額だろう。
もちろん払えるから買えたんだが……
「ふふふっ。なんと!1億ギルを超えました!」
「凄いです!よくわからない数字です!」
「本来であればこのお屋敷もそれくらいはしているので、実質タダですね」
ミラン。その計算は借金まみれの奴の発想だぞ。
この家は確かに貰い物だけどな。
内訳はもちろん不動産がダントツだ。特に水都の店が高かったようだ。王都の店の倍くらいの値段だとか。
全部で134,380,000ギル使ったようだ。
よくそんなに金があったな。金貨でも1344枚だぞ。
「結構使ったけど、まだ同じくらいは予算があるから、みんな失敗を恐れずチャレンジしようね!」
いや、そんなに使えねーよ!俺達は小市民だぞ!お嬢の聖奈さんとは違うんだよ!
「今の1日の売上がギルで600万。円で90万くらいだよ。ギルの7割は砂糖などで円の3割弱が家具だね」
「お金持ちです!セイさんが5年後も独身なら私が貰ってあげるですっ!」
「ダメです!セイさんはみんなのモノです!」
エリー…お前100%金じゃん。まぁ金も魅力の一つだけど、その金は聖奈さんが生み出しているから…俺の魅力は0%…?
そしてミラン。嬉しいけど俺はモノじゃないぞ?もしかしてペットか何かだと思っているのかな?
「エリーちゃん。そうだよ。セイくんの独り占めはダメだって最初に約束したでしょ?」
「そ、そうでした…わかりました!第三夫人として頑張ります!」
なんの約束だよ……
俺の知らないところで空手形切るなよ……
「はいはい。おふざけはそれくらいにしてくれ。明日はまずここにエリーのご両親を連れてくる。
その後、向こうの家に行くでいいか?」
「そうだね。こっちの店の雰囲気を見てもらわなきゃいけないから、いきなりで大変だろうけどね」
仕事とは大変なものだからな。
えっ?無職が偉そう?いいんだよ。俺は仕事から逃げ切ったんだから。
代わりに聖奈さんに捕まったけど……
翌朝。エリーの両親を迎えに村に転移した俺達は、荷車をみんなで押しながら人がいないところまで行く。
「じゃあ転移します。初めに荷車を転移させますので離れていて下さい」
俺はその場から荷車と共に消えた。
sideエリー
「き、消えた!?エリー!大丈夫なのか!?」
お父さんが狼狽えている。わかるわかる。私も初めて転移魔法を見た時は驚いたから。
「大丈夫だよ。詠唱に時間がかかるけど、後5分もしないうちに戻ってくるから」
「凄いのね。セイさんは。最初に見た時はパッとしない人だなって思ったけど。お金持ちだし魔法もすごいし、何より貴女を大切にしてくれてるなんて…逃しちゃダメよ?」
「な!?み、認めんぞ!?俺の可愛いエリーに、何処の馬の骨とも知らん男なんて!!」
はあ。両親は呑気なモノですね……
セイさんはもっととんでもなく凄い人なんです。
美味しいお菓子を毎日食べさせてくれる、神様なんです!
side聖
「戻りました。次はみんなで飛びますが……
何かありました?」
あれ?エリーのお母さんからは何か聖母のような眼差しを感じるが、お父さんからは親の仇みたいな視線を感じるぞ?
「大丈夫です。両親は転移魔法に驚いているだけですから」
そういうとエリーはいつも通り、左腕に抱きついた。
「なっ!?なにをしているんだ!?離れなさい!!」
「お父さん!転移するんだからくっついていないとダメなんだよ!お母さんを見習って!」
そう。エリーのお母さんは反対の右腕にエリーと同じようにすぐに抱きついてきた……
人妻はちょっと……
その後、エリーの父は渋々俺の肩に手を乗せた。
『テレポート』
魔法が発動して周囲の景色が変わる。
「いらっしゃいませ。私はセーナといいます。どうぞお入りください」
屋敷で出迎えた聖奈さんに案内され、リビングへと向かっていく。
〓〓〓〓〓〓〓〓小話〓〓〓〓〓〓〓〓
エリー父「認めんぞ!」
エリー母「エリーがダメなら私が行こうかしら?」
エリー&父「えっ!?」
side聖
聖「ハックション!!風邪か??まさかまた聖奈さんが良からぬことを…!?」
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