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「エリザベス共々、今後ともよろしくお願いします」
エリーの両親が深々と頭を下げる。
「こちらこそよろしくお願いしますね」
聖奈さんも返礼する。
話し合い…と言う名の説明は終わった。店も見てもらい、見たこともない物ばかりに終始圧倒させていたが、店の繁盛具合から将来に希望の光を見出せたようだ。
「これからエンガード王国の王都サクシードに転移します。正確にはそこにある新しいお店ですね。
お家はすぐ近くにあります。生活用品はすでに一式揃えてあるのですぐに生活出来ます。
荷車は後で運びますのでご安心を」
「何から何までありがとうございます」
エリーの父は聖奈さんを見た後から、俺への当たりが無くなった。
『こんな美人さんがいるなら娘は大丈夫だな』
気のせいかもしれないがそんな言葉が聞こえてきた気がする……
安心してください!聖奈さんよりもタイプです!
というか、聖奈さんより怖いものを知りません!
まぁ親鳥が雛鳥に餌付けしているシーンのようなモノを見せていたから、それが信頼に結び付いたのだろう。
二人の園児が昼飯の時に率先して俺の隣に座っていたからな。
そして王都に転移した。
「ここがエンガード王国…水都とは趣が違いますね」
「良かったです。私達と同じような格好の方ばかりで」
エリー母の言うことはわかる。
水都の人たちの服装は、アニメの世界のような派手さがあったもんな。
こっちの人達の格好は王都民でも普通の村人ファッションだ。
ローブ姿や薄着の女性などいない。
俺や聖奈さんは見ても楽しいから水都派だけどな。
ここは少し保守的だから。皇国ほどじゃないけど。
「そうですね。煌びやかな格好をされているのは身分の高い人達ばかりです」
聖奈さんの説明に……
「そういえばこちらには貴族の方がおられるのでしたな。私どもは礼儀知らずなので少し不安です」
「お父さん大丈夫だよ!それもセーナさんから指導されるから!頑張って覚えてねっ!」
エリーが楽しそうに補足している。
やはり親の前だと変わるもんだな。
ミランが終始恥ずかしそうにするのとは対照的だ。
二人を家に案内して今日の活動は終わりだ。
家は二階建てで、二人で住むには丁度いいくらいの広さだ。所謂2LDKのような間取りだ。
小さいながらも庭がついているから家庭菜園くらいなら出来る。
これまで農業に従事していた夫婦だ。
土地を遊ばせるようなことにはならないだろう。
晩御飯は水都の屋敷で子供達も含めてみんなで食べることに。
俺はその間に荷車を転移させたりして過ごした。
「ほう。こちらの方がエリーのご両親か。よろしく頼むのう。儂は護衛をしておるビクトールという、しがないジジイじゃ」
水都に着くと、早速二人を紹介した。
「これはご丁寧に。エリザベスがお世話になっています」
「私はビクトール様の妻のリリーという。よろしく頼む」
この挨拶にはみんな驚く。
俺は今でも驚く……
ちなみにエリーの父はラドン・ドーラ、母はニーニャ・ドーラという立派な名前はあるが、覚えられないので父、母で通す。
名前を間違えるよりいいだろ。
バーンさんは…お父さんって呼ぶと怒るから仕方ない……
今日も豪華な聖奈さんの手作り晩御飯を頂き、デザートの時間(餌付け)も無事終わり、それぞれの家に。
エリーの魔力量では、王都まで転移出来ない。
一人で凡そ100キロ程度の距離が限界のようだ。
今は使い道が少ないが、旅に出れば重宝するだろう。
エリーと両親を新居に送り届けて晩酌後に眠りについた。
「おはよ。今日はどうするんだ?」
朝食の席に着いて、本日の予定を聞いた。
「今日からは向こうに行って子供達の教育とエリーちゃんの両親に指導するよ。
みんなで行くけどいいよね?」
「ああ。わかった」
俺はイエスマンだからな。夜にお酒が飲めたらそれでいい。
ホントは夜以外も…後、美女のお酌付きで……
俺の野望には未だ遠いが、王都は転移ですぐ近くだ。
「おはようございます。よろしくお願いします」
エリーの両親から聖奈先生へ挨拶があった。王都孤児院の子供達はまだ何も売り物がない店の2階でミラン&エリー先生の元、算数と語学のお勉強中だ。
「まずは挨拶からです。これが一番簡単で、一番重要ですので、頑張りましょう」
どの世界でも人はコミュニケーションをとる。挨拶は一番最初に行うコミュニケーションだ。第一印象が良ければ次もあるが、悪ければ二度はない。
売っている物は必ず生活に必要な物じゃない。だが、一度地球産の物に触れてしまえば戻ることは難しい。まるで覚醒剤のように……
そして、挨拶は庶民的なモノ。接客も庶民的。とにかく元気が売りだ。子供達の一生懸命な姿に財布の紐を緩めてもらい、一度使えば虜になる商品。
それがこの店のコンセプト…『お爺ちゃん、お婆ちゃん!お小遣いちょうだい!』作戦だ!!
はい。それは嘘です。
「じゃあ俺は商品を取りに行ってくるよ」
「うん!よろしくね」
リゴルドーの家に地球から運び込んだモノを取りに行く。キャンプ用のLEDランプのついた地下室から転移して、荷物を持ってくるを繰り返した。
今日から子供達は住み込み予定だ。これで泥棒が入って盗まれたら仕方ない。
地下室の棚が一杯になれば次は二階だ。
そしてその後は三階。
漸く運び終える頃には、リゴルドーの家が普通の家へと戻った。
「あら?荷物がなくなっているわ」
ミランの母だ。三児の母なのに相変わらず可愛い。ずるいぞバーンさん!!
「こんにちは。遂に王都の店がオープンするんですよ。今エリーのご両親に聖奈が指導中です」
「そうなのねぇ。一度ご挨拶したいわ」
「その機会は落ち着いたら設けますので待っていてくださいね」
娘を託児している仲だ。初対面でも打ち解けられるだろう。
そして、俺には今晩苦行が待っている。
「終わったぞ。向こうの店にもついでに持って行っておいた」
戻ってきた俺は報告をする。報連相は大切だからな!
俺はされていない?いいんだよ。実質的な経営者は聖奈さんなんだから……
「おかえりなさい!ありがとう!リゴルドーのお家はもう空かな?」
「そうだな。リビングに砂糖と胡椒、後は服などのハーリーさん用の納品物があるだけだな」
最近はミラン母に任せっきりだから、ハーリーさんに会っていないな。
リゴルドーの売り上げ金は一度に纏めて受け取るからすごい金額になっていて、組合長室でそれを受け取るから益々会わないし。
今度慰労も兼ねてリゴルドーの人たち(職人と商人組合の人達)でパーティでもするかな。
「じゃあ夜は頑張ってね!」
別に変な意味じゃない。変な意味であっては困るし。
今日を無事に終えて夜になった。
「じゃあ行ってくる」
「いってらっしゃい。待ってますね」
ミランに見送られて転移した。リゴルドーの家を経由して地球へ。
「じゃあ私は事務所にいるからね」
聖奈さんと別れて俺は一階の倉庫兼加工場へ。
「凄い数だな…人を増やしたのはいいけど、輸出が追いつかない…」
俺は倉庫の在庫の山を見てため息をついた。
誰が休んでも、最悪辞めても回るように、みんなに色々な作業を覚えてもらっているようだ。
つまり、この在庫達は放っておくと置き場が無くなるペースで溜まる。
在庫表には・・・
砂糖瓶詰め・・1000個
胡椒瓶詰め・・1000個
お酒ボトル各種・・100ケース
お菓子袋詰め・・100袋
その他雑貨バラシ・・32ケース
雑貨バラシは包装やラベルを剥がし、セット商品もバラして種類ごとに纏めたモノだ。
ウチのバイトさん達はこんな仕事をしていて疑問に思わないのだろうか?
まぁ給料がいいから気にしないか。主婦ばかりでずっと働くわけじゃないだろうし、この仕事は人生の一ページどころか行間くらいの感覚だろうな。
俺なら気になって調べちゃうな。まぁ調べても何もわからんのだけど。
隠しカメラや盗聴器などのチェックは聖奈さんが時折行っているみたいだし。
出入りは少ないが、配達の人や管理会社の人が来ることもあるしな。
はぁ…考え事をしていても仕方ないな。
まだ転移魔法じゃないだけマシだと自分に言い聞かせ、月にひたすらお願いしていく。
「終わったぞ。そっちはどうだ?」
転移地獄が終わった俺は、聖奈さんへ声をかける。もちろん手が止まったタイミングだ。
邪魔はしない出来た部下なんだ、俺は。
部下って言っちゃったよ…間違ってないからいいか。
「お疲れ様。こっちもキリが良いとこだよ。後、探し物も見つかったし」
何だ?コンタクトでも落としたのか?
そもそも聖奈さんがコンタクトかどうか知らんが……
〓〓〓〓〓〓〓〓小話〓〓〓〓〓〓〓〓
聖「くそっ!なんで世の中は不公平なんだ!」
ミラン「どうしたのですか?」
聖「いや、何でもない。クッキー食べるか?」
ミラン「はい!」もぐもぐ
〜〜〜〜〜〜
ミラン「と、いう事があったのです」
聖奈「うん。いつもの発作だから気にしなくていいよ」
ミラン&エリー「そうですか…」
聖奈(うん。納得できないよね…)
〜〜〜〜〜〜
聖奈「って聞いたんだけど?なんだったの?」
聖「…」
聖奈「黙ってたらわからないよ」
聖「……んだよ!」
聖奈「えっ?」
聖「だから!バーンさんやエリーの親父さんには美人な嫁と可愛い娘がいるのに、世の中不公平だって言ったんだよっ!」
聖奈「うん。頑張ろうね」(まさかホントにくだらないとは…)