眩しいヘッドライトに照らされ、けたたましくクラクションが鳴り響く。そんな中、こんな真夜中に出歩いている数少ない人達が俺に向かって懸命に声をかける。 そんな姿を、側に佇む透明な俺がぼんやりと見つめていた。
あぁ、本当に、俺は死んだのだな。
終わり方は随分とまぁ呆気ないものであったが、不思議と実感はあった。
もう動かない自分からするりと視線を外すと、暗闇の中に浮かぶ紅い瞳と目が合った。その瞳は忙しなく動き回り、やがて観念したかの様に動きを止めて俺を再び見据えた。かと思うと、次の瞬間にはその大きな瞳から宝石の様な涙がぽろぽろと溢れ始めた。
俺は思わずぎょっとする。何で死神が泣いているんだ。だって、これはお前の仕事なのではないか。…いや、そういえばこれがこいつの初仕事であったか。
「なんというか、災難だったな」
「…っそんな…災難なのは貴方でしょう!?」
同情を込めて言うと、死神は更に涙を溢しながら叫ぶ様に言う。俺が?…わからないな。わからないのでそのまま声に出して死神に返す。
「そうか?」
「そうですよ!私のせいで貴方の来世にペナルティが発生してしまうかもしれないのですよ!そうしたら私、どうやって貴方に償えば…!」
死神が迷ったように視線を彷徨わせて、そしてアスファルトへと落とす。
「…ごめんなさい。私が貴方の死神であったばかりに、貴方の大切なものに傷を付けてしまった。謝っても謝りきれません…本当にごめんなさい 」
息を詰まらせながら、苦しそうに死神の言葉は紡がれ続ける。その姿はまるで、自分自身に傷をつけているようだった。
正義感が強い奴なのだろう。こんな今、ほんの一瞬だけお互い人生が交わっただけの俺相手に、こんなにも罪悪感を抱いている。俺もいらない正義感だけは沢山持っていたから、なんとなくわかる。この手の罪悪感はたとえ相手が許していても消えてはくれない。なにせ、相手の心は見えない。その上、相手は自分より遥かに優しかったりする。自分の目で確かめなければ不安なのだ。
俺の気持ちが少しでも伝わるように、ゆっくりと口を開く。でも、きっとお前には伝わらないのだろうな。分かっている。だから…。
「俺は、最後の最後に俺を真っ直ぐ見つめて話をしてくれたお前が、死神であって良かったと思っている。…でも、お前が信じられないというのなら、こっちにも考えがある」
「え…?」
ぽかんとこちらを見る死神。だから…この優しい死神に、俺からのせめてもの花束を送ろう。
「指切りをしよう、死神」
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