手分けして探したいところだけど、たぶん離れたら危ない気がする。あたしたちは一緒にリビングをまわっていった。
いない……。
暗いからどこかに隠れられたらどうしようもない。でも目視できる限りではうさっちはいなかった。
「玄関の方行ってみようか……」
そう小さく言い玄関へ足を向ける。
そのときだった。
チャキ…………チャキ……
「「──!!」」
一瞬で空気が凍りつく。
再び聞こえた足音。あたしはあわてて耳を澄ませた。
……少しずつ音が大きくなっている。このリビングに向かっているんだ。
終われる。うさっちを捕まえて終わりの儀式をすれば、この異質な世界から抜けられる!
「明澄行くよ!」
心を奮い立たせて明澄を向いた。
「……明澄?」
動こうとしない明澄。その鮮緑の瞳は恐怖に染まり、こらえるかのようにくちびるを強く噛んでいる。
「……ご、ごめん……な、なんか……こわくて……」
「……!」
恐怖で動けなくなったんだ。
でもまあ……わざわざ行かなくても、ここで待ってれば来てくれるよね。
チャキ…………チャキ……
かすかに聞こえていた音が少しずつ大きくなっていく。
あたしは明澄を守るように前に立ち、うさっちを待ちかまえた。
ドアは閉まっているから来ればすぐにわかる。
緊張で額には汗がにじみ、心臓はドクドクと暴れていた。
チャキ…………チャキ……
もう少しだ。塩水を少し口に含み、来(きた)るべき儀式に備える。
このとき、あたしはドアに集中していて明澄にまで気をまわしていなかった。恐怖で固まっているだろうと思いこんでいたんだ。
キイィィー──…………
ドアが開き、白いカタマリが見えたとき。
「────!」
それは容器から水があふれるように。恐怖の臨界(りんかい)点に達したのか、明澄は声に鳴らない悲鳴をあげて駆けだした。
突発的な行動にあたしは目を見開き驚く。塩水が口にあって呼び止められない……!
明澄はバタバタとうさっちが入ってきたドアとは逆のドアから飛び出していく。
一瞬の選択だった。
あたしだけ先に終わるか、明澄を追いかけるか。
「…………っ」
あたしはうさっちを放って駆けだした。
だって、追いかけないと2度と会えないような、そんな嫌な予感がしたんだ。
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