リビングを出ると、階段の踊り場でうずくまっている明澄が見えた。ここからじゃ表情はうかがえない。
逃げても意味がないと途中で気づいたのかな……。
あたしは後ろから聞こえてくるうさっちの足音に警戒しつつ、階段の1段目に足をかけた。
トントンと階段を上がっていく。
早く明澄を連れてうさっちのところに行こう。それで終わらせるんだ。
トン、トン、トン……
あと1歩で明澄のいる場所に着く。
そのときだった。
「こないでっ!!!」
ドンッ
「え──」
言葉を発する間もない。身体のあちこちに走る衝撃。
気づいたらあたしは、階段の1番下で倒れていた。
側でコップがカラカラと転がる。
「あ……え……?」
一拍おいて身体のあちこちが痛みだす。
思わずうめき声がもれた。
なんで? なんで突き落とされた?
判断を鈍(にぶ)らせるほどに明澄は恐怖に侵(おか)されていたっていうの?
チャキチャキチャキチャキ……
苦痛に顔を歪(ゆが)ませるあたしの耳にテンポの早い足音が聞こえる。その音はどんどんこちらへ近づいていた。
に、逃げないと……!
だけど意思に反して、痛みに支配された身体にうまく力が入らない。
塩水を失い、身体も満足に動かせない今、あたしに待っているのは────
「……っやだ! 助けて明澄!」
まとわりついてくるような死の恐怖にあたしは戦慄(せんりつ)した。上にいるはずの明澄に助けを求める。
しかし、さっきまでいたはずの明澄の姿はそこにはなかった。
み、見捨てられた……!?
失望、落胆、這い寄る死神。
見捨てられたことによって希望はあっけなく打ち砕かれる。
チャキチャキチャキチャキ……
視界のはしにうさっちが映る。その手には包丁が鋭く光っていた。
「死にたくない……っ」
それでも、身体はその場をのたうちまわるだけだった。
チャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキチャキ
『みいつけた』
ドスッ──
コメント
2件
ひぇ…どうなってしまうのか…