協調性のない我が家ならではだが祭りが盛り上がってくると手のつかないようなカオスになる。皇太郎は勝手に和室に布団しいて寝るし、子どもたちは鬼ごっこやかくれんぼをしだすし、歌ねーちゃんは親父と口喧嘩始めるし、光晴は遥さん困らせてるし。
「もうやだ。」
「悠晴!もっとこっち来て東京の話聞かせろよ!」
「僕もう寝るよ?」
「祭りの主役が消えたらだめだろ。」
「徹おじさんは僕がいてもいなくても盛り上がってるじゃん。」
「褒めても何も出ねえぞ。」
「別に褒めたわけじゃないよ。」
いつもは姫奈と、あと大学では隼人としか話していないからか急に大人数と話すと疲れる。もう家の反対側にある自分の部屋まで行くのが面倒で、和室で皇太郎の隣に布団を敷いて寝ることにした。けれども完全に忘れていたが皇太郎の寝相は本当に最悪だ。僕が寝付いて数分もしないうちにとんでもない威力の蹴りが僕の脇腹にもろに入って起こされる。少し布団を離して寝ようとしても、今度は追跡機能がついているかのようさでこちらに転がって来て鳩尾に突きをぶち込んでくる。
「おい、起きてるだろ。」
返事もないので寝ているようだ。枕を皇太郎に投げつけてから中庭に向かう。大盛りあがりのお祭り騒ぎから遠くて、今はおそらく家の中で一番静かな場所だ。いや、今というか昔からうちで一番静かな場所だったかもしれない。ともかく僕の一番好きな場所だ。けれで今夜は先客がいるらしい。
「姫奈。何してるの。」
「ちょっと涼みに来ただけ。」
いつものように姫奈の隣に座ると姫奈は居心地悪そうに距離を取る。ああそうだった、喧嘩してたんだった。今日の月は満月で、都会特有の蛍光ネオンの明るさがないからいつもにまして美しく見える。ギラギラと眩しい太陽よりも、少し儚げで優雅な月光が僕は好きだ。
「今日の満月、すっげー綺麗だよな。」
「!月が綺麗って…。」
「ん?どうかした?」
「あの、なんでもないから。私もう戻るね。」
まずいな。絶対に避けられている。なにか姫奈が逃げ帰るようなことをしたろうか?
「悠にぃ。」
「おう、秀也。いたんだ。」
「ねぇねぇ知ってる?『月が綺麗だね』ってね、『愛してるよ』って意味なんだって。」
「へぇ~、知らな…。」
ああ、そういうことか。きっと幼馴染でしかない僕から、いわば愛の告白のようなことを言われて動揺するとともに僕を気持ち悪がったんだ。早めに誤解を解かないと大変のことになるぞ。
「悠にぃは姫奈ちゃんのことが好きなの?」
「いや、そんなことないよ。」
「うん知ってる。悠にぃは澄麗ちゃんって人が好きなんでしょ?」
「なんで知ってるの?」
「お母さんが悠にぃと澄麗ちゃんが付き合ってるって言ってた。でも、もう会えなくて、悠にぃが悲しくなっちゃうから言っちゃだめって言われた。なんで?」
「…そんなことないよ。明日澄麗ちゃんに会いに行くんだよ。でもついてきたらだめだからな?」
「うんわかった。それよりみんなでかくれんぼしよ。」
「いいよ。」
「みんな!悠にぃ入るって!」