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ミザリー

4 - 霏霏

♥

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2023年05月07日

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【必ずキャプションをお読みください】


⚜stxxx様のnmmn作品です。苦手な方はブラウザバックを推奨します。


⚜cpは桃赤。苦手、地雷等自衛お願いします


⚜微鬱展開ですので苦手な方はご注意ください


⚜上記が守れる方のみ!












霏霏










──ぬ、



り──


──、










「っ……?」


瞼の裏が眩しくて、目が覚めた。

暖かいベッドに沈みこんでいた身体には随分長く眠った感覚があり、全身が心地よく痺れている。


「…ここ、家…?」


見慣れた天井を見てそう思い、ゆっくり上体を起こそうと腕に力を込めた。


嫌に重たい身体を起き上がらせた時、ぐっと右腕が強く引っ張られる感覚があった。



「っ、?」


反射的に目線をそちらへ動かすと、いる筈の無いさとみくんがベッドに突っ伏したまま俺の手を強く抱き締めていた。

伏せられた睫毛がゆらりと震える。



小さな寝息を立てて眠る彼へ、なんで、と呟きそうになった口を噤む。




「──ん……りいぬ?…」



瞼がぴくりと震えたと思えば、とろんとまだ眠気の残ったような声でぼやきながら彼は寝ぼけなまこを擦った。


なぜここに彼がいるのか。

朝オフィスに着いてからの記憶がほとんどない。


訳が分からなくて、でも考えれば考えるほど眠気と気怠さで頭痛がして、ついつい眉を顰めるとぱちくりと瞬きをしてこちらを見つめたさとみが心配そうに俺の額に手の甲を添えた。



「りいぬ、まだ寝てなよ。熱下がってない」



のぞき込んできた瞳が憂わしげに揺れる。




「……なんで、いるの?」



シーツをぎゅっと握りながらぼやくと、彼は呆れたように眉を下げた。


「…お前覚えてないんか、あんなに世話してやったのに」


唇を尖らせてから彼ははぁっと魂も一緒に抜けていきそうな深いため息を溢した。



「大変だったんだからな…。朝オフィス着いたらお前は倒れてるし帰ろうって言っても歩けないって言うし。だからおれが送ってきたの」


ギュッとまた強く右手を握り締める。



「え、あ、ごめん…」


「お前はいつもハメを外しすぎ」



ぱちんとデコピンを額に食らって、反射的に目を閉じる。


与えられた衝撃は随分可愛いものだったが、キッと睨んでくる瞳は可愛くない。

それから彼のはそっと俺の右手を離した。



「あ、…」


なんでいるの、だとか強がった割には彼がいてくれて安堵した自分がいたのが悔しくって、淋しげに震える右手を見つめながら頭の中がぐるぐる回る。


じわじわ指先が冷たくなっていって、きゅっと小さく指を丸めた。


詰まった息を吐くと、さとみはこちらの表情から察したようで頬の緩んだ顔をする。

嬉しそうな、その表情はイマイチ読めない。



「…なに、手、繋いでてほしい?」


なんだかその勝ち誇った顔が妙に悔しくて、何も言えない。


ただ肩を震わせて、でも言われっぱなしは悔しいからせめてもとぐっと睨み返すと、さとみは綺麗な顔をくしゃっと崩して笑った。



「ちゃんと繋いでてやるからもう寝ろ」


トントンと枕を叩かれて、強引に横にされる。



「……さと、」


「おやすみ、」


控えめに頭を撫でられて、重たい瞼と身体に耐えられなくなっていって。

そういえば俺、風邪ひいてたななんて他人事の様に思って。



そっと意識を落としてしまおうと思ったときに、





──ふと、あの夢を思い出した。


「……ぁ、」


生気の無い情景や風の暖かさの姿が写真のようにはっきり蘇ってきて、恐怖から漏れた声は情けなく震えていた。


また、寝たら──?


潤いのない薔薇も、色のない大木も、奇妙な小瓶も。全て目の前にあるかのように鮮明に思い出してゆく。


指先の震えが止まらなくって、彼に手を握られている感覚もない。



「…っさ、とみく、」



必死に出した声は掠れていて、でもそんな事より恐怖が止まらなくて助けてくれと一心不乱に彼を求める。




「…は、ぁ…?」


突然家が、彼が、目の前が。

ぐらり、と歪んだ。


かき混ぜられたように歪んだ目の前が曲がって混ざって、一つになったと思えばあの、セピア色の大木が目の前に現れた。

暖かい布団も全て色のない草むらに変わる。


「っ、!?」


手先に鋭い痛みが走り、眉を顰めた。


俺が握ってたのは、さとみの手じゃない。

紅い薔薇の菊が、棘が、掌に刺さる。



「…なん、でっ……」



禍々しい薔薇が、首に巻き付いた。


ジクジクと棘の入り込んで行く感覚だけが響いて、もう声も出ない。

ひたすらに痛くて、苦しくて、訳が分からなかった。



なんで、家は、さとみくんは?




「っ、」




─────!!!!














「っはあ、はぁ、っ…う、あ…?」


「え、…は…」


肩で過呼吸に近い乱れた呼吸をする。 

がたがた震える手は、冷えたベッドに沈んでいた。


なにが、起こって──?




「…莉犬!?」



また、同じように自室の寝室で目が覚めた。


また。

同じように彼が、さとみくんが、そこにいる。




──目の前の彼が、手を伸ばした。



「っや、だ…」



なんで、どうして、今までのは何?


今までのは夢だったと告げるように俺はベットから飛び起きていて、服は汗でぐっしょり。


もう何も分からなくて、混乱とか、そういうのを越えている。



「大丈夫か、すごい魘されてたけど」


心配そうにこちらをのぞき込んでくる彼は、さっきと何ら変わらない。


さっきのは全部夢で、でもさとみくんがいるのは変わらなくって、ガタガタと震える背中を柔らかく擦ってくれる手が現実なのか贋物のまがい物なのか、そもそも今も全部夢なのか。


分からない、考えたくない。


頭がおかしくなりそうで、保っている正気ももうギリギリだ。



「……莉犬?」


酷い案じ顔をしたさとみが、冷たい頬に触れた。




「…く、ぅ…っ…う、ぅ……」


とめどなく溢れる涙が、シーツにぱたりと染み込む。惑いと恐怖で、もう限界だった。


いよいよ本当に不安になったらしい彼が、俺の震えた身体を宥めるようにゆっくり抱き締めた。


それからとん、とんと背中を一定のリズムで叩かれる。


落ち着いて、大丈夫だよ、と何度も落ち着かせようと暖かい声で言ってくれる。

ぼんやりと感じた。彼のぬくもりと、優しい柔軟剤の香りに夢じゃない、と。



「りいぬ、寝ようか?怖い夢見たなら一緒に寝てやるから」



その言葉に、俺は首を横に振るので精一杯だった。


もちろん、なんでって顔をされる。

こんな弱ってる所を見せられたら誰だって一度眠って落ち着いたほうが良いと思うに決まってる。


「大丈夫だから、ほら」


彼が背中に手を添えたまま俺を横にさせようとして、俺は必死に首を横に振って嫌だと伝える事でいっぱいいっぱいだ。


理由をやんわり聞かれても、何も言えない。


うんともすんとも言わない俺に、彼も頭を悩ませているようだった。



「このまま、が、いい」



絞り出した声は、情けなく震え閑静な部屋にゆっくり溶け込んでいった。









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