テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#恋愛
48
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
夜の海の匂いが、まだわずかに残っていた。
駅までの道は明るくて、さっきまでの静けさが嘘みたいだった。
「なんかさ、今日静かじゃなかった?」
僕がそう言うと、隣を歩く君は少しだけ間を置いた。
「そう?」
「うん。なんか考えごとしてた?」
「……別に」
それ以上は何も言ってこない。
いつもと同じようで、どこか違う気がした。
改札の手前で、足を止める。
「じゃ、また明日な」
そう言った瞬間だった。
「無理」
君が、遮るように言った。
「……え?」
振り向く。
君は、まっすぐ僕を見ていた。
「別れよ」
一瞬、意味が分からなかった。
「……なに、急に」
自分の声が、少し低くなる。
「そのまんま」
表情が読めない。
「理由は?」
少しの沈黙。
「飽きた」
聞き間違いかと思った。
「……は?」
「もういいかなって思っただけ」
あまりにも軽くて、逆に現実感がなかった。
何か言い返そうとして、言葉が出てこない。
そのときだった。
「スマホ、貸して」
「……なんで?」
「いいから」
少し強い口調に押されて、僕はポケットからスマホを取り出した。
君は迷いなくロックを外す。
見慣れている手つきだった。
何をするつもりなのか分からないまま、画面を覗き込む。
SNSのアプリが開かれる。
君のアカウント。
——ブロック。
「……なにしてんの」
思わず声が出る。
君は答えない。
次のアプリ。
また、君のアカウント。
——ブロック。
「おい、やめろって」
手首を掴む。
でも、君は振り払った。
「いいの」
短く、それだけ言う。
連絡先が消されるのを、ただ見ていることしかできなかった。
操作が終わる。
スマホが差し出される。
「はい」
受け取る気になれず、そのまま立ち尽くす。
「……意味わかんない」
君は、少しも揺れずに言った。
「もう関わりたくないだけ」
嘘かどうかも、判断できなかった。
「じゃあね」
君はそのまま背を向けて、歩き出す。
呼び止める言葉が、出てこない。
足音だけが、少しずつ遠ざかっていった。