テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
夜の海の匂いが、まだわずかに残っていた。
駅までの道は明るくて、さっきまでの静けさが嘘みたいだった。
「なんかさ、今日静かじゃなかった?」
僕がそう言うと、隣を歩く君は少しだけ間を置いた。
「そう?」
「うん。なんか考えごとしてた?」
「……別に」
それ以上は何も言ってこない。
いつもと同じようで、どこか違う気がした。
改札の手前で、足を止める。
「じゃ、また明日な」
そう言った瞬間だった。
「無理」
君が、遮るように言った。
「……え?」
振り向く。
君は、まっすぐ僕を見ていた。
「別れよ」
一瞬、意味が分からなかった。
「……なに、急に」
自分の声が、少し低くなる。
「そのまんま」
表情が読めない。
「理由は?」
少しの沈黙。
「飽きた」
聞き間違いかと思った。
「……は?」
「もういいかなって思っただけ」
あまりにも軽くて、逆に現実感がなかった。
何か言い返そうとして、言葉が出てこない。
そのときだった。
「スマホ、貸して」
「……なんで?」
「いいから」
少し強い口調に押されて、僕はポケットからスマホを取り出した。
君は迷いなくロックを外す。
見慣れている手つきだった。
何をするつもりなのか分からないまま、画面を覗き込む。
SNSのアプリが開かれる。
君のアカウント。
——ブロック。
「……なにしてんの」
思わず声が出る。
君は答えない。
次のアプリ。
また、君のアカウント。
——ブロック。
「おい、やめろって」
手首を掴む。
でも、君は振り払った。
「いいの」
短く、それだけ言う。
連絡先が消されるのを、ただ見ていることしかできなかった。
操作が終わる。
スマホが差し出される。
「はい」
受け取る気になれず、そのまま立ち尽くす。
「……意味わかんない」
君は、少しも揺れずに言った。
「もう関わりたくないだけ」
嘘かどうかも、判断できなかった。
「じゃあね」
君はそのまま背を向けて、歩き出す。
呼び止める言葉が、出てこない。
足音だけが、少しずつ遠ざかっていった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
#切ない