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#切ない
いつからだろう。
呼吸をするだけで、少しだけ痛くなるようになったのは。
最初は、ただの体調不良だと思っていた。
すぐに治るものだと。
でも違った。
診察室の白さが、やけに眩しかった。
医者の声が、遠くで響いていた。
「少し、進行が早いですね」
その一言で、全部が変わった。
——時間が、もう長くないこと。
すぐに理解はできなかった。
でも、ゆっくりと、現実が追いついてくる。
その日から、私は考え続けた。
君のことを。
どうやったら、君を苦しめずにいられるのか。
どうやったら、君の中で私は“綺麗なまま”でいられるのか。
そして、ひとつの答えに辿り着いた。
——離れること。
その夜、君と会った。
海に行こうって、私が言った。
理由なんて、何でもよかった。
ただ、最後にちゃんと伝えるための場所が欲しかった。
波の音が、やけに優しかった。
君は何も疑わずに、いつも通り隣を歩いてくれる。
その優しさが、怖かった。
——私はもう、その隣にはいられないのに。
改札の前で、すべてを終わらせるつもりだった。
でも、本当のことを言う勇気はなかった。
だから、嘘をついた。
「飽きた」
そんなはず、ないのに。
君の顔が歪むのを見て、胸の奥が締め付けられる。
それでも、やめなかった。
ここで終わらせなければ、もっと苦しくなるから。
「スマホ、貸して」
それは、最後のわがままだった。
君のスマホを開く。
指が覚えているパスコード。
何度も隣で見てきたから。
私の名前を、ひとつずつ消していく。
ブロック。
ブロック。
ブロック。
手が震えないように、必死だった。
——これでいい。
——これで、君は前に進める。
そう思い込まないと、壊れてしまいそうだった。
「いいの」
それだけ言って、スマホを返す。
君は、何も知らない顔でそれを受け取った。
本当は、最後に何か残したかった。
でも、それはできない。
私が残せるのは、たったひとつだけ。
——BeReal。
あれだけは、消さなかった。
それが、私の最後の“つながり”になると思ったから。
君が、いつか気づくことを願って。
そして、夜の中に溶けるように、私は君から離れた。
——さよなら。
もう二度と、君の隣にはいられないけれど。
それでも。
君の未来が、少しでも優しいものでありますように。