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「ありがとう…」
それ以上は、お互い何も喋らないまま、ただひたすら走り続けるだけだった。
もう、話すことはなかった。多分向こうもそう思っていたのだろう。
当然の結果だった。ここまでしてやっているのに、反抗され、腹立たしいに違いない。
(私…辞めるんだ。)
窓から流れる景色を見つめながらふと思う。まるで他人事みたいに実感が沸かなかった。
勢いで言ってしまったこと。だけど、後悔はなかった。この先いつバラされるかびくびくしながら過ごすより楽だ。
辞めたあとのことなんて考えなかった。というより、どうでもよかった。
(私なんて別に…どうなってもいい。どうせ誰も必要としてないんだし。)
「店長、ここで大丈夫です。家、すぐそこなんで。」
自分がいつも降りる駅が見えてくると、声をかけた。あれから、初めて発した言葉。とても無機質な響きだと自分でも感じた。
店長は、それに気づくと停車できそうな場所を見つけ、慎重に停める。
完全に動きが停止したのを確認して、私はシートベルトを外した。
車のデジタル時計を確認すると、11時過ぎだった。あれからそんなに時間が経過していないことに、驚く。
辺りは、もう店の灯りも消え始めていて、居酒屋くらいしかやっていなかった。
「ありがとうございました。お疲れさまです。」
一応、礼儀としてお礼を言う。
「うん。じゃあ…また明日、仕事でね。お休み。」
――え…?――
その笑顔が、あまりに寂しそうで…心が、ざわついた。
だけど気づかない振りをして、軽く会釈をすると車を降りていく。
私の前を過ぎ去る店長の車を、少しの間視線で追いかけていた。
風が、冷たく横切っていった。