テラーノベル
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同窓会の日にちと場所を桜から聞くと、了解の返信を送った。
それから数時間後、尊さんの家で夕食をご馳走になってから、自分のマンションへと帰宅した。
温かな料理の余韻が胸に残り、明日の同窓会もきっと大丈夫だと、自分に言い聞かせるように眠りについた。
◆◇◆◇
同窓会当日───
久しぶりに袖を通した、少し大人びたネイビーのシャツ。
鏡の前で襟を直し、指先で生地の感触を確かめる。
かつての俺なら、家を出る前に
「何時に帰るのか」「誰とも話さないと約束できるか」「何を食べ、何を飲むのか」までを亮太さんに細かく報告しなければならなかった。
少しでも返信が遅れれば、スマホが震えるたびに心臓が跳ね上がり、恐怖で指を震わせながら画面を握りしめていたはずだ。
でも今日は違う。
ポケットの中にあるスマホは重苦しい枷ではなく
いざという時に繋がれる、まるでお守りのように温かく感じられた。
◆◇◆◇
同窓会の会場は、都内のホテルの宴会場だった。
重厚な扉を開けると、華やかな照明と懐かしい笑い声が津波のように押し寄せてくる。
人混みの中から、桜がすぐに俺を見つけて大きく手を振りながら駆け寄ってきた。
「あ!レンレン!本当に来たじゃん!……え、ちょっと待って、あんた、なんか雰囲気変わった? ちょっとカッコよくなったんじゃない?」
「そうかな? さくらこそ、相変わらず元気そうだね」
旧友たちとの再会は想像以上に楽しく、心に張り付いていた緊張も
皆の屈託のない笑顔に触れるたび、一枚ずつ剥がれ落ちていった。
「乾杯!」という威勢のいい声とともに、お酒を一口飲む。
他愛もない学生時代の笑い話や、今の仕事の愚痴。
それは、かつての俺が「決して許されなかった」はずの
ありふれた、けれど何よりも贅沢で普通の光景だった。
しかし、宴もたけなわになった頃。
ふとした瞬間に、隣のテーブルから女子グループの賑やかな声が漏れ聞こえてきた。
「最近さ、彼氏の束縛激しくてさ~!今日も『早く帰ってこい』だの『誰といるんだ』だの、もうしつこくて参っちゃう!」
笑い話として語られるその「束縛」という単語。
その瞬間、背筋に氷を直接押し当てられたような戦慄が走った。
視界が急激に狭まり、周囲の笑い声が水中に潜ったように遠のいていく。
(……束縛、か)
脳裏に蘇るのは、暗い部屋で逃げ場のない隅に追い詰められ、冷え切った目で見下ろしてきた亮太さんの顔。
『今、何時だと思ってるんですか?』
『僕を裏切って楽しい?』
脳内で再生される幻聴に、俺は無意識にスマホの時計を確認しようとして、手が小刻みに震え始めた。
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