テラーノベル
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(落ち着け……落ち着くんだ。今日は大丈夫なんだ。なにより、尊さんがいてくれるんだから……)
「……レンレン?顔色悪くない?」
桜の心配そうな声にハッとして、俺は引き攣りそうな口角を無理やり持ち上げた。
「あはは、ごめん。ちょっと久しぶりにお酒飲んだから、回りすぎたかも。……少し、外の空気吸ってくるね」
俺は逃げるように会場を抜け出した。
絨毯の上を歩く足元がおぼつかない。
ホテルのエントランスへと急いだ。
◆◇◆◇
自動ドアが開くと、冷たい11月の夜風が容赦なく頬を叩いた。
その寒さが、かえって麻痺しかけていた意識を現実に引き戻してくれる。
見上げた夜空は高く、都会のネオンが滲んで見えた。
(やっぱり、まだ怖いんだ……楽しめば楽しむほど、幸せを感じれば感じるほど、後で恐ろしい罰を受けるんじゃないかって……身体が、細胞が覚えてるんだ……)
自分の不甲斐なさに奥歯を噛み締め、俯きそうになったその時。
ポケットの中で、スマホが短く震えた。
画面を見ると、そこには短く、けれど力強い一言。
『今、着いた。正面玄関の前に車停めてるからな』
尊さんからのLINE。
その文字を目にした瞬間、胸の奥に澱んでいた冷たい塊が、お湯を注がれたようにじわりと溶けていくのが分かった。
孤独な暗闇の中に、確かな光が差し込んだような感覚だ。
◆◇◆◇
同窓会の終了を告げるアナウンスが聞こえると同時、俺は駆け出した。
ホテルの大きな自動ドアを勢いよく抜けると、並んだ高級車の中に、見慣れた黒いセダンを見つける。
街灯の下
運転席のドアに背を預けて立っていたのは、俺の過去を断ち切り、俺の「今」を守ってくれる最強の人
「尊さん……!」
俺が駆け寄ると、尊さんは顔を上げ、少し乱れた俺の髪を見てふっと目を細めた。
その眼差しは、凍えた心を溶かすほどに優しい。
「……少し、早かったか?」
「いえ、ちょうど良かったです。今、ちょうど尊さんの顔が見たいって……そう思ってたところでしたから」
俺の言葉に、尊さんは何も聞かずに、ただ大きな手で俺の肩を抱き寄せた。
その手のひらの厚みが、何よりも雄弁に俺の無事を祝福してくれているようだった。
「そうか。お疲れ……ちゃんと楽しめたか?」
「はい! みんなと色んな話ができました。……途中、ちょっとだけ昔のことを思い出しちゃったんですけど……」
「でも、尊さんが外で待っていてくれるって思ったら、ちゃんと最後まで笑ってられました」
「よかったな」
尊さんは俺を助手席に乗せると、自分も運転席に乗り込み、エンジンをかけた。
重厚なエンジン音が心地よく響く。
「今日はゆっくり休め」
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