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君と夜空

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君と夜空

1 - 第1話

2024年09月10日

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「また、キレイな夜空を眺めたかった──。」

彼女はそうポツリとか細い声で呟き空へと還っていった。

彼女は、星々が煌めく夜空が好きだった。

僕にも理由は分からない。ただ、生前の彼女は会う度に

「星が見たい、キレイな夜空を眺めれるのはいつかな。」

と楽しそうに話していた。

「さあ、きっともうすぐだよ。」

そう言って僕は嬉々としている彼女とは裏腹に無神経なことを言い放ち、会話を聞き流していた。

星や月のどこが良いのだろうか──、ただ暗闇の中でポツポツと小さく光っているだけの星と星とは違い色々な形で姿を現す月。

ただの形や光であって僕にはそこまで楽しめるほどの魅力は感じない。

彼女とは好きなものの価値がだいぶ違ったせいもあり、夜空の話をする彼女が少し嫌だった気もする。

「今日は、──流星群が見れる日なんだって。」

「そうなんだ、でも今日は曇りだし見えないさ。」

「そんなことないよ、偶然雲が風に流されて見れることもあるんだよ。」

「へえ。」

また夜空の話だ。

口を開けば、”星が”とか”月が”とかばかりだ。

つまらない、つまらない。もっと僕といる時間を大切にしてほしいのに──何かと夜空の話ば かり。

「こんな夜空なんか見えなければいいのに。」

僕はとっさに彼女を見た。

「あー、退屈だよー。」

声が聞こえていなかったのか、彼女はいつもどおり独り言を発している。

よかった、聞こえていなかった。

別に気にしなければいい話なのだが、なんというか彼女への罪悪感を瞬間的に感じてしまった。

「あ、そろそろ時間じゃない??」

「ほんとだ。じゃあ、明日は時間的に来れないし明後日だな。」

「うん、楽しみにしてるよ。あ、でも無理しちゃだめだからね学生なんだから。」

そう言って彼女は僕の横腹を人差し指でつんつんと押した。

「分かったからやめろって、病人は大人しく寝てろよな。」

「はいはい、じゃあまたね」

「うん、また」

最後の会話だったと思う。

今夜は彼女が言っていた──流星群が見れるってことで、僕もカーテンを開けて窓を覗いた。

生憎外は大雨で、星や月なんて見れない。

「やっぱり見れないじゃないか」

とカーテンを閉めスマホを眺める。

何時間経っただろうか、動画を見ていたら寝落ちをしてしまっていた。

スマホの画面を見ると、知らない電話番号からの着信が来ていた。

「こんな時間に誰だよ。」

着信履歴を開き、僕は文句でも言ってやろうとその電話番号に掛けた。

意外にもすぐに相手は電話に出た。

よし、非常識だと一つ言い放ってやろう。そう思ったときに電話口から信じられないことを聞いた。

「──折り返しいただきありがとうございます。○○さんのお電話でお間違いないでしょうか。」

「え、そうですけど──」

「今すぐに××病院へと来院して頂くことは可能でしょうか。」

「僕は何も悪いところないですけど、なんですか」

「説明不足失礼いたしました。△さんの容態が変化して今夜が山場になるかもしれないので──」

「え、今夜がですか?今朝会ったときはとても元気でしたよ。」

「そうだったのですが、こちらとしてもすぐの退院予定だったのですが△さんの悪性腫瘍が移転してしまったようで、手を尽くさせて頂いたのですが‥」

「──今すぐ向かいます。」

半ば信じていなかった、そんなわけないだろうと。

今朝は楽しそうに夜空の話をしていたのに、──流星群が見れると大口叩いていたのに。

今夜が山場?信じられない、そうであってほしくない。

そう思っていたのもつかの間、病室では彼女の両親も見届けに来ていた。

彼女は苦しそうに息をしていて、意識も朦朧としていた。

「うそだ、△、△あんなに元気だったのにどうしちゃったんだよ──」

涙ながらに彼女に駆け寄り訴える。

「──流星群見れなかったのは分かるけど、だけど今じゃないだろ、もっともっと先だろ。」

彼女の返答はない。

「なあ、△、置いて行かないでくれよ。△がいないなんて楽しくないんだ」

一方通行の会話が病室内に響く。

声をかけても、今までにないほど話しかけても彼女は苦しそうに息をするだけだった。

彼女の両親が僕の肩をそっと撫でる。

「△はもう十分頑張ってきたの、だから今夜は、今夜くらいは△を見守りましょう。」

「でも、こんなの、──」

「──私達も大事な娘を失うんだ、○○くん、君だけじゃない。」

「ああ、──僕は、僕はもっと彼女を、△を幸せにしてあげたかったのに。」

涙で視界が眩む。

「──○○、私、──流星群見たかったな。」

小さな声で彼女が言った。

「ああ、そうだよな、」

彼女の返答はもう、決意しているような諦めているような感じがした。

「ごめんな、△、僕最低なこと言ったんだ。」

そういう僕に彼女は”知ってるよ、でもね夜空はそんなに嫌なものじゃないよ”と少ない力で僕の頬を撫でながら言った。

なんてことを言ってしまったんだ、僕があんなことを言わなければこうなっていなかったのだろうか。

頭の中で葛藤する。

涙が止まらない。彼女を失いたくない。

「また、キレイな夜空を眺めたかった──。」

彼女はそうポツリとか細い声で呟いた。

 ピーピーと心電図モニターが音を発する。

 彼女の撫でてくれていた手から力がなくなっていくのを感じる。

バタバタと医師や看護師が病室を出入りをする。

 「──、××年××時××分、△様御逝去いたしました、この度はご愁傷さまです。」

 「○先生、娘をありがとうございました。」

彼女の両親は涙ながらに頭を下げ言った。呆気なかった気もする。

 彼女を失ったショックで数カ月は何も手につかなかった。

 「──今夜は──流星群が見れる見込みです。」

リビングから流れてくるニュースは流星群のものだった。

△が言っていた流星群ではないが、キレイな夜空が好きだった彼女だ。見たいと呟いていただろう。

 僕は足早に流星群を見に行った。

人だからりの多そうなところは避けて、彼女と二人きりで見れそうなところへと。

 数時間が経ち、夜空を見上げる。

星がキラキラと煌めき、その間を通るように流星群が流れた。

とても、キレイだ。

今は空に還ってしまった彼女も、この景色を眺めているのだろうか。

 「君の分まで、夜空を堪能するよ。」

僕はそうポツリと呟き、カメラへと収めた。

 なんとなく、彼女が夜空を好きだった理由がわかった気がした。

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