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今日は取材やらピンの仕事の後にメンバー全員揃っての収録があって、一日スケジュールがびっしりだ。忙しいくらお仕事があるのはありがたい。
前の仕事が少し早く終わったおかげで、収録するスタジオにも早めに着くことが出来た。
「おはよーございまーす!」
「おー、おはよ」
元気に挨拶して楽屋に入ると、中にいたのはまだ深澤が1人。
ソファに深く座って携帯を見て…あれ、珍しくちょっとお疲れモードか?
俺以上に気遣い屋の深澤は、滅多に疲れを周りに見せないのに。
「どうした、深澤? 前の仕事、何か大変だったのか?」
「あー…いや、そういうんじゃなくてさ…」
荷物を置きながら問いかけると、何とも歯切れの悪い答え。
無理に聞き出していいものかどうか…考えてると、そんな俺の様子を察した深澤が苦笑した。
「仕事のことじゃないんだ。ただ、照と喧嘩した…というか、ちょっと怒らせちゃったというかさ」
「照が? 珍しいな」
「まあ、俺が悪いというか…照が怒るのも無理はないというか」
「…それ、俺が聞いてもいいやつ?」
念の為聞いてみる。照が嫉妬深いのは知ってるし、2人にしか分からないこともあるだろう。俺が首を突っ込んで拗らせたら申し訳ない。
深澤が笑いながら「お前やっぱいいヤツだよなー」と言った。
「聞いてもいいっていうより、ちょっと聞いてくれるか?」
深澤の言葉にこくりと頷くと、照が怒ってる理由を教えてくれた。
聞いた話を簡単に纏めると、以前から深澤にしつこく誘いをかけてきた芸人がいるみたいで。それは上手くかわしてきたけど、先日参加した飲み会にそいつがいたらしい。
「それだけなら不可抗力なんだけどさ…その時たまたま照が電話してきてさ。何故かそいつが携帯奪ってきて先に出やがったんだよな」
「うわー…照のキレ顔が目に浮かぶ」
「何とか取り返して電話に出たらマジギレ声ですよ…俺死んだと思ったね」
「え、もしかしてここにいる深澤、幽霊?」
「生きてるわ。そこから宥めてもすかしても駄目で電話を切られ。着信もメッセージも全部スルーされて今に至る。それが昨日の出来事です」
「うわ、おま! 全員での収録日に持ち越すなよ!! 照のキレ顔とか全国放送乗せらんないだろ」
「それは分かってんだけどさ…全部無視されてる俺にどうしろと」
それはそうだ。疲れた顔の深澤を見ながらそう思う。
そもそもさ、深澤が照以外に靡くわけがないんだから。照は深澤を信じてなさ過ぎ。
連絡ガン無視は良くない。
「…深澤的にはどうなんだ? 仲直りしたい感じか??」
「仲直りというか…ちゃんと話をしたいかな。その上でキレられたら、まぁ…改めて喧嘩になるかもしれないけど」
「ん、分かった。何かあったら呼べ。俺が深澤を守るから」
「何だよそれ」
「だって今回は絶対深澤は悪くない。なのに照が理不尽に怒るんだったら、俺だって黙ってないからな。深澤を傷付けるなら照でも許さねーし」
「ははっ…ありがとな、佐久間」
そりゃ痴話喧嘩ならほっとくけどさ、今回は違うから。
いつも周りのことをよく見ていて、周りのことばっかり考えてる深澤。例え相手が照でも、深澤が傷付けられるなら俺が戦う。
そのくらいには、俺だって深澤のこと仲間として大事に思ってる。
「俺、深澤のこと好きだから。だから相手が照でも戦う。ボコボコにされても諦めない」
「……いや逆に重い」
何だと失礼な。
俺の決意に苦笑いしていた深澤が、ふっと俺の後ろを見た。
何事かと思って、俺も釣られて振り返る。
「今、誰かいなかったか?」
「いや、分かんねーけど…照じゃないよな?」
「えー、もしそうだったら余計に誤解与えそうな場面じゃなかったか?」
ぼやきながら深澤が立ち上がって、扉の方へと向かう。ノブに手を伸ばそうとしたのと同時に、バンッと大きな音を立てて扉が開いた。
「うわっ、びっくりした!」
「…っ、ふっか!」
「え、照?」
扉の向こうから姿を現したのは照。その様子はマジギレしてるというより、何か焦ってるように見えた。
驚いて固まってる深澤と俺をよそに、深澤の姿を見つけた照ががしっとその腕を掴む。
修羅場開始かと俺が身構える間もなく、照が深澤に向かって頭を下げた。
「ごめん、ふっか! 電話の後、頭冷やそうと思って目ぇ瞑ってたらそのまま寝ちゃって…無視するつもりはなかったんだ。マジでごめん!」
「え…何だ、そっか…」
「メッセージだと変な印象与えそうだったし、直接話そうと思って急いで来た」
「…それなら、いいんだ…照に嫌われたわけじゃないなら…」
「嫌いになんてならねーよ…お前が悪くないのちゃんと分かってる。昨日の電話でも、キレてごめん。どうしても抑えらんなかった。辰哉は俺のなのに馴れ馴れしくしやがってって…」
「あのー、お2人さん…俺席外すんで、その後ゆっくりやってもらっていいでしょうか…?」
目の前で繰り広げられる2人の世界に耐えられなくなってきて、そっと手を挙げて申告する。
深澤は赤くなって慌ててるし、照に至っては「あ、佐久間いたのか」だと。
お前マジで深澤しか目に入ってなかったな、このバカップル!
「こんなピンク頭なのに存在感薄くてすみませんねぇ」とぼやきながら、一旦外に出ようと照が入って来た扉に向かう。
「あ、佐久間。ありがとな」
「いーえ! 夫婦円満で何よりだわ」
にっと笑って手を振りながら部屋を出る。
若干馬に蹴られたような気もするけど、まあ、照も怒ってなかったみたいだしいっか。
2人で話すこともあるだろうし、少しそこら辺を回ってから戻って来よう。
いわふか夫婦の危機が回避されたことに安堵しながら歩き出す。やっぱりさ、メンバーは仲良い方が嬉しいじゃん。
ましてや2人の仲はずっと知ってるしさ。
あの2人も意外と世話が焼けるなぁと思いながら歩いてた俺は、この時は全然知らなかったんだ。
俺こそ、この後人生最大の危機が訪れるなんて。