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萩原なちち
「あ! そうだ。車で回れるサファリパーク見つけたんだよ。着くまで1時間くらいかかるけど、自分たちの車で回れるの、ヤバくない?」
俺の提案に、しゅうとの目がキラキラと輝く。
「え、絶対行きたい! じゃあ、スーパーでお弁当買って行きましょう! 絶対、だいきさんの家に行くより楽しいですよ!」
「いや、しゅうとが俺んち行きたいって言い出したんだろ?」
「だって……親友のいつきくんすら知らないだいきさんの家に、僕が一番に入りたかったんやもん」
……あー、そういうことね。
しゅうとが俺の部屋に来たがった理由が、下心じゃなくて「独占欲」だったことに少しだけホッとする。俺たち、ちゃんと時間をかけて関係を作っていこうとしてるんだもんな。
「……いつきくんのこと、気にしてる?」
ふと気になって聞くと、しゅうとは少しだけ視線を落とした。
「そりゃ気になりますよ。だいきさんがずっと好きやった人やから。どれだけ素敵な人か、りゅうせいくんからも聞いてたし。……絶対勝てへんなって、気持ちが沈んじゃって」
なるほど。だから連絡が止まってたのか。
「別に、しゅうとはしゅうとなんだから、勝とうとしなくていいんじゃない? それに、俺はしゅうとのこと、すごく好きだよ?」
「え?」
「え?」
……待て。俺、今さらっと言った? 告白した?
いや、違う。「人間として好き」って意味で、深い意味はなくて……。
「……えへへ」
「なっ……! またその笑い方!」
くそ、バレた。俺が余裕ぶって焦らしてること、全部見透かされてる。
「あーヤバい! まだ動物園ついてないのに、めっちゃ楽しくなってきたー!」
急に変なダンスを踊りだしたり、ラブソングを熱唱したり。
しゅうとのテンションは完全に爆発していた。マジで若すぎてついていけないわ。俺、そんな時期もうとっくに過ぎてるからね。同じノリで行けないからね……。
……なんて思っていたのに。
結局、寒いとか言いながら車を降りて、手を繋いで動物を見て回った。
周りから見たら、俺たちはどう見ても幸せなカップルそのものだったと思う。
「運転、ありがとうございました! また遊びに行きましょうね。すっごい楽しかったから!」
送り届けた駅前で、しゅうとは満足げに手を振って去っていった。
あんなに「部屋に行きたい」と言っていたのに、案外あっさりした引き際。
……あれ?
俺が告白して以来、しゅうとは「好き」って言わなくなった。
代わりに、当たり前のように手を繋いで、当たり前のようにイチャイチャして。
「……え、俺ら、もう付き合ってることになってる?」
このグダグダな感じのまま、始まっちゃっていいの?
車のハンドルを握ったまま、俺は一人、夜の静寂に取り残された。
「だいきくん手繋ぎましょう。そのままコンビニにデザートでも買いに行きませんか?」
「……え、どうしたのいっちゃん。まだ俺の事財布だと思ってる?」
俺の失礼極まりない返しに、いっちゃんは呆れたように肩をすくめた。
「ね? なんの期待もしてない相手に急にそんな事言われても戸惑っちゃうだけでしょ?でもしゅうとだと、絶対なんないでしょ?だから、しゅうととのデートがグダグダだったなんて事は絶対ないんすよ。お互いの想いが交わって、とっても自然な流れでデートができたんだから」
なるほど……。数日悩んでいた俺は、いつの間にか、いっちゃんに恋愛相談をしていた。俺の様子がおかしいと気づいたいっちゃんに無理やり聞き出されたとも言えるけど。
「……っていうか! あなたたちは、いくつになって中学生みたいな恋愛してるんすか!」
突然、いつもクールないっちゃんが声を荒らげた。
「しゅうとは『どうやって手を繋げばいいかわかんないから水族館ついてきて』とか言い出すし、行ったら行ったで俺をダシに使うし! こっちの身にもなってくださいよ!」
「うわ、そこも仕組まれてたんだ……。俺、いっちゃんと仲良すぎて不安になってたのに」
でも、嬉しいな。みんなが俺の幸せのために、そこまで動いてくれていたなんて。
「だいきくんは鈍いんだから! 焼肉の時のカレンちゃんへのラブコールも、矢印を消したり書かせたりしたのも、全部! 俺がだいきくんにヤキモチ妬かせるために頑張ってたんですからね!?」
必死な顔のいっちゃんは、あの時心配してくれたいつきくんと同じ目をしていた。
「……ありがとうね、いっちゃん。本当は俺のこと、そんなに愛してくれてたんだね」
「はぁ!? ……なんか風向き、おかしくなってません?」
「え、俺のこと好きだから、ヤキモチ妬いてほしかったんじゃないの?」
「ほんとバカだ。話にならない……!」
「いいよ? ほら、今めっちゃ自然な流れじゃん?俺ら付き合う? 大切にするよ?」
「ちょっ、いつきくん助けてください! あなたの親友、頭おかしい!」
「ん? だいきが頭おかしいのはずっとだよ」
逃げるように喫煙所に走っていったいっちゃんを追いかけると、そこには色気ダダ漏れのいつきくんが、ふにゃっとした笑顔で俺を迎えてくれた。
……ああ、やっぱり。俺、いつきくんがタバコ吸ってる姿、世界一好きだわぁ。
カシャッ!
「…………あ」
無情な電子音が響く。いつきくんの後ろで、りゅうせいが般若のような顔でスマホを構えていた。それ、上司に向ける顔じゃないだろ。
「しゅうちゃんに送ったからね。今のデレッデレの顔。……怒られればいい」
「待ってよ! 俺ら、まだ付き合ってねぇよ!?」
「でも両思いなんでしょ? なら一緒じゃん」
「え、一緒なの!? 違うくない!??」
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