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萩原なちち
「一緒だよね? いつきくん」
りゅうせいの問いかけに、いつきくんはふっと遠くを見るような目をした。
「ん~、俺、付き合うずっと前からりゅうせいのこと好きだったけど……『一緒』ではなかったなぁ。難しいよね、そこら辺のボーダーって」
「……ずっと好きだったとか、みんなの前で言わないでよぉ」
なんだよ。俺の前で堂々とイチャイチャすんな。
その時期、俺はずっといつきくんが好きだったんだ。これでも地味に心痛むんだからな。
「じゃあ、早く告白しなきゃだ!だいきくん、早く! 今すぐ行って!!」
いっちゃんのその顔、純粋に応援してるのか、俺を自分から遠ざけたいだけなのかどっちだよ。
「でも本当に、急いだ方がいいよ。明日バレンタインでしょ? しゅうとの事だから何があるかわかんないじゃん」
「だいきもいい加減、男らしく決めなきゃな。いつまでも冗談ばっかりじゃ、ずっと一人だぞ」
「……最近のいつきくん、本当にお父さんみたいだよね。りゅうせいのせいだ」
「ねぇいつきくん! だいきくんがいじわる言う! 懲らしめて!」
「誰ぇ? 俺の息子いじめてんのぉ?」
「えっ、いつきくんのムスコ!? いじめていいの!?」
「お前……本当にそういうのばっかりだな」
バカみたいな下ネタで笑って、話を切り上げた。
しゅうとのことをいつきくんに知られるのは、それなりに恥ずかしいんだ。
でも、心配すんな。俺はどんな色気イケメンが来ようとも、絶対に揺らがない自信がある。
なぜなら——俺は、あの天使に首ったけだからだ!!
「よし。これなら絶対、喜ぶだろ」
バレンタイン当日。
昨日、閉店間際の百貨店で迷いに迷って決めた、とびきり可愛いチョコ。愛を込めたメッセージカードも忍ばせた。
しゅうとが喜ぶ姿を想像するだけで、足取りが軽くなる。
ふと、去年のクリスマスにいつきくんにチョコを渡していた女性を思い出した。
あの人も、今の俺と同じ気持ちで家を出たんだろうな……。今さらながら、ちょっと申し訳ない。でも、恋愛ってのは残酷なものなんだ。
そう、例えば——今、目の前で起きている惨劇のようにな。
「……なんだよ、これ」
わざわざ呼び出すのも気恥ずかしいから、出社ついでに受付でさらっと渡すつもりだった。
なのに、ロビーは溢れんばかりの女の子たちで埋め尽くされている。
「すみません! お仕事始まるので、並んでない方は終わってから来てください!!」
聞き覚えのある、でも聞いたことがないくらい半ギレの声。
ミレイちゃんだ。俺に気づくと、泣きそうな顔で駆け寄ってきた。
「だいきさぁん、助けてくださいぃ~!」
「どうしたの? これ、何?」
「しゅうちゃんにチョコ渡しに来たメスたちの群れです」
……マジか。
俺の天使は、俺が思っている以上に、この世界の「猛獣」たちに狙われていたらしい。
「メスたちって……」
吹き出しながらも、ミレイちゃんがしゅうとを「しゅうちゃん」と呼んでいるのが地味に気になる。……いや、今はそんな場合じゃない。
「エグいな、しゅうと」
「マジか、これほどだとは……」
「やっぱ女装のままの方が良かったのかもな」
後ろから現れた「モテ男3人衆」におはようと声をかけられる。
「……君たちも、またすごいことになるんだろ? いつも俺だけもらえないんだから」
「それはだいきくんの日頃の行いでしょ」
「まぁだいきはいいんだよ。女の子にモテないように、わざとやってんだからな」
「……さすがいつきくん、わかってるね」
ミレイちゃんに「警備の人呼んでくるね」と声をかけ、一度鞄を置きに行く。
案の定、3人の机には山盛りのチョコレート。俺の机には、部下からの申し訳程度の義理チョコのみ。
「誰にもなびかない」なんて心配してる場合じゃなかった。心配なのはしゅうとの方だ!
「はい! 仕事始まるから解散! しゅうとくんはチョコアレルギーだからね! もらってもゴミ箱行きだよ! 危険物として俺が全部捨てるからね!!」
俺はロビーに駆け戻り、収まらない列に突っ込んで両手を上げた。あえて嫌われ役を買って出て、メスたち(ミレイちゃんの言葉を借りるとすれば)を追い払う。
「だいきさん! おはようございます!」
「はい、おはよー……じゃねーわ! 嫌なことは嫌って言う! いらないものはいらないって、はっきり言う!」
すると、しゅうとがパッと顔を輝かせて、ロビー中に響き渡る声で叫んだ。
「皆さん! 僕はだいきさんからのチョコしかいらないので、受け取れません! アレルギーで死んでもいいから、食べるのはだいきさんからのチョコだけです! このチョコは、皆さんが本当に一番好きな人にあげてください!!」
「……おいおい、公開告白かよ」
「手伝いに来たのに、いらなかったね」
いつきくんたちの呆れ声が聞こえる。そこへ、りゅうせいが俺の手に、昨日迷いに迷って選んだあのチョコを押し付けてきた。
「だいきくん、このタイミングで渡す! はい!」
「え、なんでこれ、俺からだってわかったの……?」
「『大好きだよ』ってメッセージカードじゃなくて、直接言った方が伝わりますよ?」
「おい! 勝手に見るんじゃねーよ!!」
「見えちゃったんだもん、仕方ないよね?」
「いつきくん、この小僧教育して……!」
「いいから早く。しゅうとが待ってるから」
ミレイちゃんまで半笑いで「どうぞ」なんて誘導してくる。……くそ、つられて笑っちゃうじゃん。
ロビーの喧騒が遠ざかり、俺としゅうとの間にだけ、特別な空気が流れる。
「……だいきさん、さっきはカッコよかったです。自らヒール役になれる人なんて、ほとんどいません」
しゅうとは、少しだけ切なそうに目を伏せた。
「僕は、人に嫌われたくないから『いい人』のふりをして、いつも自分で自分を追い詰めてしまいます。だから……」
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