コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
―――羽枝は『魔術師』である。
その力は空間と概念さえも切り裂く不可視の刃。名を切断系統魔術と呼び、空間支配系統魔術師『沙夜乃』から受け継いだとされる魔術。
過去に妖術師が戦った相手に、空間転移を扱う偽・魔術師が存在している。
その偽・魔術師は、原本たる空間支配の限界とされる回数制限を余裕で越え、大いなる力を手に入れていた。
恐らく、羽枝もその一人。魔術師の沙夜乃から血を受け取り、飲み干し、盃を交わしたのだろう。
その結果、沙夜乃の『空間支配』と自身に顕現した『斬撃』が上手く組み合わさり、空間と概念さえも断ち切る『切断』が生まれた。
「―――と、ここまでは全て合ってるかい?」
「…………………。」
無言、羽枝は私の言葉に何一つ答えない。
そりゃ当たり前だ。羽枝は行動を予測された上で何も知らず踊らされ、自身の仇となる妖術師の武器で戦闘不能にまで追い込まれた。
最後にその内容を全て私の口から暴露し、尊厳の破壊を行ったのだ。心が壊れるのも無理は無い。
「無視という事は肯定だね。それじゃあ次の質問だ」
私は『無銘・永訣』を羽枝の首元に突きつけながら、淡々と羽枝に対して質問を投げ掛ける。
何一つ答えないとは言ったが、全ての質問に答えない訳では無い。
無言なのには変わりないが、呼吸の速度、目線、心臓の鼓動で肯定か否定かを判断している。
現に私の問いに対して羽枝は指をピクリと動かし、少しだけ目がこちら側を向いた。
羽枝のひとつひとつの動きから怒り、憎しみ、驚愕が感じ取れる。何ともまあ分かりやすいのだろうか。
「君の力についての質問は終わり。次は本命の『京都』での件について答えて貰うよ」
第一に、京都で何をしていたのか。
それを聞こうにも羽枝は無言の状態。予想を1個づつ喋って反応を見るのもいいが、手間が掛かりすぎる。
だから手短に、羽枝が京都でやろうとしていた事を的確に。問い掛ける。
「空間支配系統魔術師『沙夜乃』の蘇生。」
「…………………っ!!」
羽枝の目が強く私を捉え、奥歯を噛み締めるり。 少しながら発汗が見え、指先が微かに震えていた。
「―――ビンゴ。」
ほぼ勘で言ったが、どうやら大当たりの様だ。
―――人物の蘇生。
それは過去に遡る『遡行』や等価交換で創り出す『人体錬成』といった禁忌とは違い、死に体に魂を引き戻して復活させる。魔術の中の禁忌。
本来なら禁忌と呼ばれる術を自ら扱う者は居らず、本能的に代償として罰を受ける行為を避ける。
だが、魔術師は違う。その禁忌を望み、利益と自己満に自身を費やす。
これまで妖術師が出会った魔術師の大半は『禁忌』に触れようと事件を起こし、目前で失敗といった結末を迎えている。
「まあ沙夜乃が静岡で何の禁忌に触れようとしていたのかは分からないけど。羽枝、君は『蘇生』って大胆な禁忌に手を出そうとしていたね?」
先程も述べたが、数ある禁忌にはあらゆる罰が存在する。その中で最も分かりやすいのが妖術師の『遡行』だ。
彼の『遡行』の全貌は、過去の彼が語ってくれ、その内容そのものを見せて貰った。
妖術師の中で禁忌とされる“未来視”の代償として『遡行』を得た。視た未来を捻じ曲げる事が出来るまで永遠に死に続け、戻り、また死ぬ。
―――それが彼に課せられた罰であり、裁定でもあった。
「ふむ、そうだな………『蘇生』を行う為に京都に急いだのはいいものの、収容施設から抜け出したばかりで準備が足らなかった。『蘇生』の要となる、儀式のね 」
魔術師の場合、禁忌の術を使用する際に正式な手順を踏んで儀式を行えば、受ける罰が軽くなる。
そんな馬鹿げた話が魔術界では噂として有名であり、信じる者は誰一人としていなかった。それは恐らく、羽枝も同じ。
それでも彼女は、馬鹿げた話に乗るしかなかった。希望として縋るモノがそれしか無かったのだ。
「儀式の供物は、妖術師を除いた全術師に共通している動力源『魔力』とその他道具多数。沙夜乃が使ったとされる『魔導具』」
「魔導具については一度静岡に訪れて回収済み、そして肝心となる魔力だが………今現在の京都は避難勧告が出され、人間は全員離れているが故に、調達は難しい」
魔力の生成元を辿ると、必ず人間に行き着く。 人間の生み出した“悪”や“陰”の感情が歪み、変化し、魔力へと成り代わる。
それが魔力が生まれる工程とされている。
つまり、その生成元となる人間が居なかった場合。儀式を行おうとしても空気中の魔力だけだと足らず、不発に終わる。
「そこで君は考えた。人間をより多く集め、儀式の生贄にできる方法を、魔術師の過去を深く探り、似たような事をしていないかを」
その時、羽枝は思いついてしまった。いや、気付いてしまった。
過去に起きた最悪な事件であり、多くの人間を消滅に追いやった事件の事を。
「―――大規模魔法事件。 大勢の人間が消滅し、 地盤が蠢き、甚大な被害を齎したアレ、だ」
私が羽枝だったとしても、全く同じことを考えていた事だろう。
大規模魔法事件の時、惣一郎の立ち上げた組織『Saofa』と政府が徹底的に調べ上げ、最終的に出した結論は、人間を殺す事に特化した魔法の展開。
『惨劇』を目的とした無差別殺人とされていた。
しかし、私は明らかにそれが目的とは思えなかった。
なにせ彼ら彼女らは無差別に人間を殺すマネはしない。 殺す・奪う行為を行う時、魔術師は必ず理由を持っている。
静岡でも、今回の京都でも、魔術師は偽・魔術師が住人を殺す事に対して興味を示さず、自らの手で殺す事も無かった。
そう、『興味が無い』のだ。彼らは人間に関心を抱いていない。
となれば、無差別殺人以外の動機で大勢の人間を殺す理由。―――それはもう、ひとつしかない。
三人の魔術師が起こした魔法は、人間を贄とした儀式そのものだったのではないか、と言う事だ。
「だから君は急いで京都を離れ、ここ東京へと再び戻って来た。大規模魔法の発生源となったこの地に、儀式に扱った道具が残っている事を願って」
………本当に、大規模魔法事件が禁忌を犯す為だけの儀式かどうかは結論付けれない。
Saofaと政府の言う通り、魔術師三人が人間を殺す為だけの魔術を使った場合、儀式の供物などは存在せず、羽枝の行動は無意味となる。
だが逆に、本当に供物やらが存在していた場合は―――、
「―――魔術師三人は魔術界の禁忌術『生物の蘇生』『未来の予知』『世界の書き換え』のいずれかを行おうとしていた事になる」
禁忌魔術を扱う為の儀式。
もし本当にそれが大規模魔法事件の時に行われたとしたら、三人の魔術師は何らかの禁忌に触れようとしていたのだ。
―――羽枝へ問い掛けると同時に、大規模魔法事件の真相が次々と顕になって行く。
だとしても、あくまでも可能性。 全てが全て合っているとは限らない。
羽枝の目指す場所に必ず『供物』があれば、禁忌魔術の発動はあったと立証されるだろう。
「あと、魔術師とはいえ、禁忌魔術に手を出せばタダで済むとは到底思えない。ある程度の“代償”は払ったのだろうけど………」
妖術師の記憶、『遡行』の内容に出てきた沙夜乃は特に目に見えて“代償”を受けた感じはなかった。
……流石の『千里眼』でも、記憶の中の人物を鑑定する事は出来ない。沙夜乃がどんな“代償”を得たのか、その答えを知る方法は何も無い。
「兎にも角にも、君のしたかった事は『大規模魔法で扱われた供物の回収』と『京都で儀式を行う』で間違いないだろう」
「………違う、と言ったらどうするつもりなの」
ついさっきまで生きる希望を失っていた羽枝の目に、生気が戻り、私を睨みつけている。
全(偽)魔術師の自己回復能力は精神面にまで作用するとは、自身で試せない事を知れたのは嬉しい限り。
「違えばまた一から考え直すさ。次は私個人で答えを導き出さず、君の口から、指をひとつひとつ切り落として尋問を行う」
最初から羽枝の身体に傷を与え、答えを聞くといった方法が一番手っ取り早いが、それは惣一郎によって禁止されている。
あくまでも『保護』だ。傷つける行為は控える様に何度も説得された。
「私に負けた君は契約通り、全てを話す義務がある。けど、契約を遂行させるのは今じゃない」
全術師において、契約の二文字は大きなモノとなる。
それを守らなかった場合、遂行するまで魔術の性能がやや劣化する。羽枝の場合は『斬』の威力が下がり、出せる斬撃の数が減る。
それを知っていても尚、羽枝は私に真実を喋ることは無かった。………身体の反応で回答を得る行為は羽枝の口から出た情報では無い為、契約内容に値しない。
故に、羽 枝は契約をまだ遂行していないが故、自らの手で魔術を制限し、情報漏洩のタイミングを先延ばししている。
「また別の機会、それこそ魔術師に関する大きな情報が欲しい時、この契約を強制的に遂行させる」
羽枝の『保護』という第一関門は突破したが、まだ私は任務を全う出来ていない。
彼女が京都に訪れた理由『沙夜乃の蘇生』を結論付ける証拠を見つける事が出来れば、晴れて成功と呼べる。
だから、いま私がやるべき事は。 ―――羽枝を連れて『大規模魔法事件』の中心部へと向かう。
「それじゃあ、君をSaofaの協力者となる彼らに渡して、大規模魔法事件の中心部へと向かう。あと処理は任せるとするさ」
もう時期、妖術師と惣一郎の協力者が到着する頃合。その数名に羽枝を渡せば偽・魔術師程度からは守れるはずだ。
その間、私は安心して大規模魔法事件の中心部へと足を運ぶことが―――、
「―――問題発生」
羽枝に対して意識を向け、無意識的に閉じていた『千里眼』が今になってその危険を知らせ始める。
―――未来を視た。 断片的な未来、30秒後に起こる出来事の未来を。
「………まさか君の方から接触を試みて来るとはね」
私は重い『無銘・永訣』を持ち、路地裏へコツコツと足音を立てて侵入してくる人物を見つめ続ける。
「Saofa魔術師は殺せ、だったはずだが。お前はそこで何をしている」
私がいま一番遭遇したくない。戦えば100%負けると予測していた史上最悪の術師。
“秘術師”が、そこに立っていた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
上下とも真っ黒なスーツに線の柄が入ったネクタイ。シワひとつ見当たらないワイシャツにセンター分けのロングヘア。
その立ち姿から異様な雰囲気を漂わせ、魔術師滅殺の意識を肌で感じる程の殺気を持つ男。
「どうして、よりによって君が先に到着するかな………私は見ての通り、惣一郎から出された任務を行っているだけさ」
両手に武器に見える物体は無く、口に一本だけ煙草を咥えているだけ。 それなのにどこか、一瞬でも目を離せば大惨事になると直感してしまう。
「………惣一郎の犬が。オレは魔術師を殺せると聞いてここに来た、それの邪魔する ってならお前も殺す」
「いまの私は魔術師じゃない。なのに私を殺すのかい?人間殺しは絶対にしたいと言っていた君が、その誓いを違えるつもり?」
この男に名は無い。周囲の術師からは『厄介者』と呼ばれ、日本でも数少ない“秘術師”のひとり。
強さなら“あの空間”で戦った妖術師以上であり、今まで出会った魔術師よりも強いと思う。
古くから惣一郎と関わりがあり、私とも少しだけ関わりがある男だ。
「………魔術が抜き取られてるのか。何ともつまらない状態だな。魔術師じゃないならさっさと失せろ、用があるのはお前じゃなくてコイツだ」
秘術師は羽枝を指差し、私に向けて殺意の籠った目線を送る。瀕死の獲物を横取りする、ハイエナの目。
「悪いけど、それは出来ない。さっきも言ったけどこれは仕事だからね、私を殺したければ好きにするといい」
「言うようになったじゃねぇか、小娘。誰がお前をそこまで育ててやったと思ってんだ」
「―――私の面倒を見てくれたのは君じゃない。あの人だ、死ぬ間際でさえ顔を出さなかった君が師を名乗る資格は無い」
そう。この秘術師の親友こそが、瀕死だった私を助け、大きくなるまで世話をしてくれた人間。
雪山で救助され、行く宛ての無い私を引き取ってくれた。命の恩人であり、私の義理の父親。
そんな彼は『京都の魔術師』に追われ、私は彼の親友である秘術師に助けを求めた。
秘術師はそれを承諾し、現場へと 向かった。………はずだった。
「まだあの時の事を引き摺ってるのか。言っただろ、“間に合わなかった”ってな」
『京都の魔術師』が彼を殺すその瞬間、秘術師は逃亡し、彼を見捨てた。
現地へと到着した私はまだ未熟の『偽・魔術師』だった。氷の扱いすらままならない私は急いで魔術を使用したが間に合わず、彼を守りきれなかった。
その間、秘術師は一度も姿を現さなかった。
『京都の魔術師』を足止めしていた訳でもなく、密かに彼を救助する道を作っていた訳でもない。―――本当に何もしなかった。
「言い訳はいらない。魔術師を殺したいなら京都に行け、羽枝は私が連れて行く」
男はポケットに手を突っ込んだまま黙り、しばらくして両手を出して、胸元から新しい煙草を一本取り出した。
「………なら二つ条件がある。惣一郎と連絡が取れる手段を寄越せ、あと妖術師の居場所を教えろ」
惣一郎との連絡手段、それはいつも利用している無線機のことだろう。
これまでに起きている出来事の把握と、魔術師の情報を聞くために無線機を使うのは分かるが………、
「妖術師の、居場所?」
何故、秘術師は妖術師を追っている。
同じく魔術師を殺す事を性とした人物同士だから。―――否、この秘術師は妖術師に対してそんな思いは抱いていない。
なにせ、この男は惣一郎が大っ嫌いだ。魔術師と同じほどに嫌い、憎んでいる。
そんな惣一郎と共に行動している妖術師なら、秘術師が忌み嫌っていてもおかしくない。
「お前は羽枝、オレは情報を求めている。少しお釣りが帰ってくるくらいの交換条件だろ?」
妖術師を危険に晒す行為は避けなければならない。だがここで交換を断れば、確実に羽枝諸共この場所が吹き飛ぶ。
自らの死か、妖術師の危険か。 優先順位など関係なしに、脳内で私の天秤は傾き始める。
「ダメだ、何をするか分からないお前 に妖術師の事は教えられない」
―――妖術師が危ない目に遭うくらいなら、私は死を選ぶ。
彼はこの先、魔術師を殲滅させる使命がある。妖術師無しでそれは成し遂げる事は不可能であり、誰も代役として務まらない。
「そんなにオレの事が嫌いか。まあ仕方無い事だ。…………手っ取り早く殺してやるよ、お前も魔術師も」
男の咥えていた煙草が口端から零れ落ち、乾ききった地面へと落下する。
大地と接触するまで二秒間。煙草の軽さと風の傾向からして、二秒は決して越えない。
その時間が、互いの生死を掛けた戦いとなる。
「『罪歌』」
男がそう呟いた刹那、 『無銘・永訣』を握り締めた私の身体を縛る様に、地面から無数の鎖が姿を現した。
鎖はまるで生きているかの動きを見せ、考える時間すら与えない。
「―――っ秘術師ぃ!!」
回避しようと身体を動かす私に、黒く錆びた鎖が首・ 腕・脚に巻き付く。 ガッチリと掴んだソレは、時間が経つにつれて 絞める力が増す。
掴んでいた『無銘・永訣』は私の手から離れ、少し遠い場所へと転がった。身動きが取れない状態が故、刀の回収は不可能。
「こっちもこっちで時間が無いからな。羽枝、だったか?悪ぃがお前はここで死んで貰う」
秘術師が姿を現してから一言も発しない羽枝。死を受け入れたか、目を瞑ってただ秘術師が近付くのを待っている。
「………クソ、クソクソ。逃げろ、羽枝!!」
今の私は無力だ。魔術師が扱えない事に加え、『無銘・永訣』の回収すら出来ない。
折角、大規模魔法事件の真相に辿り着く鍵を見つけたと言うのに。私は毎回、惜しい所でピンチになってしまう。
いつもなら妖術師が近くにいて、このピンチを寸前で打開する。そんな展開を私は期待していたが、こればかりはどうしようも出来ない。
「………頼む、もう一度だけ力を貸してくれ。どんな代償だって払う、どんな希望だって聞く!!だから来い、私の元へ!!」
口から、腹から、心から、私からの叫びが路地裏内へと響く。
願うのは一瞬の奇跡。その奇跡が起こるかどうかは分からないが、ほぼ皆無に等しい。
それでも願う。
もう二度と期待を裏切らない為に、もう二度と、大好きな▇▇に応える為に。この手を空に掲げ、願う。
「何に願うってんだ。もう希望も何も無い、魔術師は全員殺す。それは、 決定事項だ」
秘術師が脚を上げ、羽枝の頭部に狙いを定める。 頭蓋骨ごと、踏み潰す気だ。
変わらず羽枝は動かない。
そうだろう。ここで死ねば『沙夜乃』の蘇生は無理だとしても、魔術師の秘密は死守され、 蘇生よりも早くあの世で沙夜乃に逢える。
だからこそ、私はそれを―――、
「罪歌と全く同じ鎖ってこたァ、テメェが『秘術師』だな。………ンだよ、この世界じゃアイツらの性別は反転すンのか?」
何も無い空間から、何も無いただの空気中から、ソレは姿を現した。
黒いサングラスに黒髪、隙間から見える黒目、黒いアウターに黒いジャージのズボンを履いた人間。
身長は妖術師より少し高い、社会人の平均身長と同じ。 腰には異様なオーラを放つ刀を拵え、その喋り方は妖術師に似ている。
「さてと、こっからは俺とお前の戦いだ。誰一人手ェ出すンじゃねェぞ!!」
数秒前に姿を現したと私が思っていた瞬間、男は既に刀を抜刀し終え、秘術師に向かって突き進んでいた。
振り上げられた刀先は秘術師の首を軽く掠め、驚いた秘術師は少し遅れて回避行動をとった。
早い。私が戦った『妖術師』よりほんの少し遅いか同等。その見極めが出来ないほど、素早かった。
「一撃で仕留めるつもりだったンだが… ……少し腕が鈍っちまったか?」
一呼吸し終わる間に、一回の勝敗が決していた。
真っ向勝負にて、攻撃を行った男の刀を、秘術師が避けた。それ即ち逃げの行為であり、負けを認める。
「………ガキ、お前何者だ」
秘術師から見られる驚愕の表情からして、男は秘術師と顔見知り、と言った感じも無い。
本当に初対面、今日会ったばかりの初めましてだ。
予想外の攻撃に焦ったのか、秘術師の額から汗が流れ、少し呼吸も荒くなっている。
「………君は、一体……」
突如現れた正体不明の男。
妖術師に似た雰囲気を放ち、各魔術師にも匹敵する程の実力を持つ秘術師を圧倒して見せた。
黒い服で身を包み、絶体絶命の場面で登場し、窮地の私を救う。
「俺の名が知りたきゃ戦いに勝て、それがひとまずの第一条件って奴だ。………存分に、楽しませてくれよ!!」
その姿はまるで、 『八咫烏』だ。