テラーノベル
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『あと 00:03』葵のスマホ画面で静止した、真っ赤な数字。
荒く、ひゅーひゅーと掠れていた葵の呼吸が、ほんの少しだけ落ち着きを取り戻すのが分かった。
「は……? フリーズ……!?」
キララの金縛りに遭ったような声が、廊下にぽつんと響く。
彼女は自分のスマホ画面を、今まで見せたこともない狂暴な速度で連打していた。細い指先が液晶を擦り、叩き、画面の光が目まぐるしく明滅する。
「あり得ない……あり得ないあり得ない! 私のプログラミングだよ!? 外部からの介入なんて暗号化処理で弾くはず——」
『甘いわね、天才プログラマーさん』
スピーカーから響く、ノイズ混じりの合成音。
どこか挑発的で、余裕を漂わせた少女の声が、天井のスピーカーからカラカラと笑ってみせる。
『あなたの作った『DEATH-PHONE』、ベースの構築は素晴らしいわ。でもね、貴大くんに執着しすぎるあまり、貴大くんの行動ログを取得するポートだけ保護がザルだったのよ。愛が重すぎてセキュリティに穴が開くなんて、ウケるわね』
「黙れ……黙れ黙れ黙れッ!!」
キララが叫んだ。
あの可憐で、静かで、冷徹だった少女の面影はどこにもない。
髪を振り乱し、血走った目でスピーカーを見上げるその姿は、まるで玩具を奪われた子供そのものだった。
「私の……私と貴大くんだけの世界なのに! 邪魔しないで……ッ! 誰なのあなた!!」
『言ったでしょ? 私は【NULL(ヌル)】』
スピーカーの向こうの少女は、くすくすと冷ややかに笑う。
『貴大くん、今よ! ぼんやりしてないで、その子を連れて走りなさい! フリーズ処理が持つのも、あと数分が限界よ!』
「……っ!!」
NULLの声で、俺の思考のハザードが弾け飛んだ。
理由は分からない。NULLが何者で、なぜ助けてくれたのかも知らない。
だけど、今この瞬間、葵の命が繋ぎ止められたことだけは紛れもない事実だ。
「葵……っ!!」
俺は床に倒れ込んでいた葵のもとへ駆け寄り、その細い肩を抱き上げた。
「たか……ひろ、くん……」
「喋るな、喋らなくていい! 立つんだ、葵!」
葵の体は驚くほど軽く、そしてガタガタと震えていた。葵の床に転がっていたスマホを引ったくり、俺のポケットに押し込む。画面はまだ『00:03』で止まったままだ。
「行かせない……」
地獄の底から響くような声がした。
振り返ると、キララが壊れた人形のような動きで、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってきていた。
その瞳は完全に光を失い、黒い深淵のような狂気だけが宿っている。
「行かせないよ、貴大くん。逃げられると思ってるの? この学校のネットワークも、街の監視カメラも、全部私の手の中にあるんだよ……?」
彼女がスマホを構え直す。
「NULL……だっけ? そのハッカーの接続を切ったら、今度こそ葵ちゃんも、貴大くんの家族も、全部消してあげる……」
「行かせるかよ……!!」
俺は葵を横抱き(お姫様抱っこ)で抱え直すと、キララに向かって思い切り叫んだ。
「お前なんかに、俺たちの日常を壊されてたまるか!!」
俺は背を向け、暗くなりかけた廊下を全力で蹴った。
「貴大くんッ!!!!」
背後で、金切り声のようなキララの叫びが響き渡る。
足音が追いかけてくる気配。だけど、俺は振り返らない。腕の中の葵の体温だけを感じながら、階段を駆け下りていく。
『貴大くん、聞こえる?』
走る俺のポケットの中で、葵のスマホからスピーカー越しではない、NULLの小さな声が聞こえた。
『生徒玄関を出たら、右に曲がって裏門から出なさい。正面玄関の自動ドアは、あの子にロックされてるわ』
「NULL……! お前、一体——」
『質問は後。今はとにかく、そのヤンデレの監視網から逃げることだけに集中して。……ようこそ、デスマホの本当の「ゲーム」へ』
夕闇に包まれた校舎を抜け、俺と葵の、命をかけた逃走劇が幕を開けた。
桜咲かな
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#学園
人間🫧🪄/👤💚
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コメント
1件
わあ、第6話、めちゃくちゃ緊迫してましたね……! キララの狂気じみた執着と、スピーカー越しに現れたNULLの余裕ある声が対照的で、一気に引き込まれました。特に「愛が重すぎてセキュリティに穴」って台詞、皮肉利いてて好きです。あと、葵ちゃんを抱えて逃げる貴大くんの「行かせるかよ」の叫び、胸が熱くなりました。あのクライマックスからの逃走劇、続きが気になりすぎます……! 本当に面白かったです!