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榊くんは、わたしと同じ17歳。
でもしっかりしていて、なんでも上手にこなせるから、ずっと年上に見える。
そしておまけに、すっごくかっこいい。
スラリと背の高い身体にギャルソンスタイルの制服が、すごくすごく似合っていて。
長めの黒髪に、きりっとした目が印象的な顔立ちは、隙がなくクールな感じでカッコいい。
…ちょっと不良みたいで怖く見えるけど。
実際に、中学校までは怖いことをしていたって聞いたことがあるけれど…。
機敏にホールをまわる姿は、余裕にあふれていて、つい見入ってしまうし、お客さんに対する態度もすごく礼儀正しくてやさしくて、それでいて気さくで楽しい会話もできて…もう非の打ち所がない。
そんな完璧な晴友くんの夢はパティシエになって、このカフェに洋菓子店も開くことなんだそう。
だから修業も兼ねて、メニューのケーキもすべて晴友くんが手がけている。
最初は、作ったのを処分するのがもったいないので低価格でおいていたんだけれど、じょじょに人気が出てきて、今は売り切れることもあるくらいの人気。
ネットの口コミでもケーキがあげられることが多くなって、リピーターもどんどん増えているみたいで、女のお客さまが毎日たくさんいらっしゃる。
…そうだよね。
こんなに魅力的な男の子がおいしいドリンクやスイーツを持ってきてくれて、しかもやさしい言葉までかけてくれたら、お客さまは感激しちゃうよね。
だって…
わたし自身がそうだったし…。
でも…。
一緒に働き始めてわかったんだけど。
榊くんのそんな姿は、アクマで『営業用』の姿であって…。
あ、あれ。
ところで、わたしの失敗したサル…クマアートはどこに行ったんだろ…?
きょろきょろしていると、榊くんが戻って来た。
「サービスであのサルアートも出したらよろこんでたぞ」
「え…?」
あれ、お客さまに出したの…!?
きれいな切れ長の目をすこしイジワルそうに細めて、榊くんはさらりと続けた。
「『新メニューですかぁ?』だって。本日のみの限定メニューですって言ったら『ラッキー』って笑ってたぞ」
「ひ、ひどいよっ、『あんなの出せない』って榊くんだって言ってたのにっ」
「『クマ』ならな。『サル』なら申し分ねぇよ」
と、ニッと口端をゆがめるイジワルな顔。
ひどいっ、って思うのに、くやしいけどそんな顔もかっこよくて…顔がかぁあと火照ってくる。
「ぷ。怒るなよ。なんかおまえもサルみてぇ」
「サルじゃないもん…!」
「ははっ。あ、ところで7番にコーヒー持っていったか?追加はいってただろ」
あ…!
「いけない…!まだ…」
「はぁ?ったくトロいな。てきぱきやれって言ってるだろ」
「ご、ごめんなさい!」
あわててコーヒーセットを用意する…けど、動揺して手がすべる…!
カシャン!
嫌な音がたって…いけない…カップが欠けちゃった…。
「あーあ、やっちゃったー」
はぁ、と榊くんがため息をついた。
「まじありえね。ほんっとおまえ、ドジだよな。もうやめちゃえばー?」
そう。
お客さまに対しては礼儀正しくてやさしい榊くんだけれど。
ホールの裏に入ってしまえば態度は激変。
イジワルで厳しくて口が悪い先輩になってしまう…。
コーヒーは榊くんがさっさと淹れて持って行ってくれた。
残されたわたしは、欠けたカップをそっと集める。
涙をこらえながら。
思い描いていた夢が崩れてしまって、すごくショックだけれど。
悪いのはやっぱり、わたし…なんだよね…。
入って2週間しか経っていないけれど、数えきれないくらいドジは連発したし、スイーツ作りも失敗してばっかりだし、食器も何個も割ったし…。
晴友くんにつらく当たられるのも無理ないよ…。
はぁ…。
好きな人と一緒に働きたいなんて、無謀だったのかな…。
いつか「好き」って告白できたら、と思ってお店に入ったけれど…気持ちを伝えるどころか、少しでも認められないと、って焦ってばかりの毎日。
そばにいられるんだから一生懸命やろうって自分なりにがんばっているけど…
こんなダメなところばっかりさらしちゃ、もうとっくに嫌われちゃってるかもしれない…。
でも…。
榊くんへの気持ちをあきらめるなんて、できないよ…。
だって、こうして一緒に働けるようになったことだって、やっとの思いでつかんだ奇跡なんだもの。