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「おっ、いいね。頼むよ」


涼さんは笑顔で頷き、恵もペコリと頭を下げる。


「お願いします」


その次は厚めの牛タンが焼かれ、私はお肉がジュージューいっている姿を見ながら、広島での事を話し始めた。


「夏目凜さん、凄くさっぱりしていていい人だったよ。尊さんが好きだったの、分かるな……って思っちゃった」


そう言うと、彼は物言いたげな目で私を見てくる。


――と、恵がポンと肩を叩いてきた。


彼女のほうを見ると、恵は真剣な表情で言う。


「朱里は本心でそう思ってるんだろうけど、夏目さんがいないこの場で〝いい子〟になろうとしなくていいんだよ。私も涼さんから聞いたけど、確かにサバサバしていていい人なんだと思う。広島に行った時も、嫌な事を言われなかったと思う。……それでも朱里は〝嫌〟だったんでしょ? 篠宮さんに嫌われたくないから、いい子でいたいのは分かるけど、私の前でまで本音を隠さないで」


ハッキリと言われたあと、目の奥が熱くなる。


どうしてこの子は、ここまで私の事を理解してくれているんだろう。


私はズッと洟を啜り、目をパチパチ瞬かせて涙を誤魔化す。


「篠宮さんも、一人で広島に行ったら朱里を心配させるから、連れて行くしかなかったと思います。……でも、この場にいる全員が『いい人』って言う夏目さんに、朱里が引け目を感じない訳がないじゃないですか。……『言われなくても』って思うでしょうけど、恋人なら朱里を不安にさせないでくださいね。……朱里が泣くような事があるなら、今からでも私が責任を持って引き取りますから」


恵の言葉を聞き、涼さんはクスクス笑う。


「空いてる部屋がもう一部屋あるし、そこに朱里ちゃんが寝てもいいかな」


「ちょ……っ、待てよ! 誰も朱里をおざなりに扱ってるなんて言ってねぇだろうが」


尊さんは慌てたように言い、恵が私を抱き締めたのを見て眉間に皺を寄せる。


「忘れないでくださいよ。私は篠宮さんより前から朱里を大切に想ってるんですからね。自分だけが朱里を大事に想ってるなんて、勘違いしないでください」


尊さんは途方に暮れた顔をし、そのあと大きな溜め息をついてガックリ項垂れる。


「……中村さん、当たりが強すぎないか?」


「知らないんですか? 日本国憲法で、朱里を少しでも悲しませたら重罪に処されるって決まってるんですよ。朱里ファースト」


しれっと言った恵の言葉を聞き、涼さんがケラケラと笑う。


私は次に焼かれたお肉をいただきながら、いつでも全力で味方になってくれる恵に感謝した。


ちなみに次のお肉はカイノミかハラミを選べる。


カイノミはフィレ肉に近い、背中側の部位で、切り分けた時の見た目が貝に似ているからそう呼ばれているらしい。


焼き肉でお馴染みのハラミは横隔膜にある筋肉の一部で、食感は普通のお肉に似ているけれど、実はホルモンと同じ内臓系だ。


どちらも牛一頭から少ししか取れない希少部位で、食べ比べるとカイノミのほうが少し脂が強いみたいだ。


私と恵は珍しいのでカイノミを頼み、自称おっさんの二人は比較的脂の少ないハラミを頼んだ。


しんみりした話をしているのに、私はお肉とお米のコンボを決めている。美味しい。


お水を飲んで口内の脂を流したあと、私は溜め息をついてまた話し始める。


「……確かに微妙な気持ちにはなりましたけど、嫌々行った訳じゃないですからね? 元カノに会いに行くと分かっていて着いていったのは私です。相手が嫌な人じゃなくても、複雑な気持ちになるのは分かっていました。尊さんは私一筋だと言ってくれたし、……だからあとは私の問題なんです」


そこまで言うと、尊さんは「それなんだが……」と言って、立ちあがる。


彼は荷物を置いている場所まで行くと、車を近くに駐車したあとから手にしていた紙袋を差しだしてくる。


「これで詫びになるとは思ってないが……」


黒い紙袋には、ゴールドの文字でブランド名が書いてある。


「ショパールか」


涼さんは目ざとくブランド名に気づいたけど、私と恵は目をパチクリとさせている。


「開けさせてもらいますね」


高級チョコレートかと思って中に入っている箱を開くと、キラキラしたダイヤモンドのネックレスとピアスが入っていた。どちらもお花みたいなデザインで、とても可愛い。


「ルール・ドゥ・ディアマンじゃないか。華やかだけどゴージャス過ぎないから、何にでも合うんじゃないか?」


涼子のファッションチェックが入る。


「……ありがとうございます……」


呆然としてお礼を言うと、恵が「ふんっ」と鼻を鳴らす。


「これだから金持ち男は、高額なジュエリーを贈ったら許されると思って」


「あのね、中村さん……。君は俺に何の恨みがあるの……」


尊さんはげんなりとしてサラダを食べる。

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