テラーノベル
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必要な服を一通り買い物かごへ入れ終えたあとも、阿部は店内をゆっくり歩いていた。
「他に何かいる?」
目黒が尋ねる。
「うーん……。」
そう答えながらも、阿部の視線は自然とレディースコーナーの一角へ吸い寄せられていた。
ラックに一着だけ掛けられた、ロング丈のワンピース。
淡いアイボリーの生地に、小さな花柄が控えめに散りばめられている。
ふんわりと揺れるスカート。
袖は七分丈で、派手すぎず、優しい雰囲気だった。
阿部はここ数日間何度も「自分は男なんだ」と言い聞かせてきた。
だから、そういう服を見るたびに目を逸らしていた。
けれど、このワンピースだけは違った。
(……かわいい。)
そう思ってしまった自分に、一番驚いていた。
(着てみたい……。)
その気持ちを認めるのが少し怖くて、阿部は何も言わずにその場を離れた。
実は、その様子を目黒は横目で見ていた。
けれど何も言わなかった。
「……あべちゃん。」
「ん?」
「気になる服、あった?」
阿部は一瞬言葉に詰まる。
「……え。」
「さっき見てた。」
目黒は優しく笑った。
「花柄のワンピース。」
「見てたんだ……。」
耳まで赤くなる阿部。
「その……。」
言葉がなかなか続かない。
「ちょっとだけ……着てみたいって思っちゃって。」
俯いたまま、小さな声で続ける。
「変、かな。」
目黒は首を横に振った。
「全然。」
「着てみたいって思ったなら、それで十分じゃない?」
その言葉に背中を押されるように、阿部はハンガーラックへ戻る。
そっとワンピースを手に取る。
生地はさらりとしていて、思っていたより軽い。
「……試着、してくる。」
「うん。」
目黒は笑顔で頷いた。
「行ってらっしゃい。」
試着室のカーテンが閉まる。
阿部はゆっくりと服を脱ぎ、ワンピースへ袖を通した。
鏡の前に立つ。
「……。」
そこには、見慣れない少女がいた。
でも、不思議だった。
嫌ではない。
むしろ、少しだけ胸が弾む。
スカートの裾をつまんでみる。
ふわり、と揺れる。
(……かわいい。)
思わず頬が緩んだ。
勇気を出してカーテンを少し開ける。
「めめ。」
「うん?」
「その……見てもらってもいい?」
「もちろん。」
目黒が振り返る。
そして──。
言葉を失った。
「……。」
阿部は不安になってしまう。
「やっぱり変?」
すると目黒は慌てて首を振った。
「違う。」
「え?」
目黒は照れたように視線を逸らし、耳を赤く染める。
「その……。」
何度か口を開いては閉じる。
ようやく絞り出した一言は、とても素直だった。
「……すごく似合ってる。」
阿部は目を丸くする。
「本当?」
「うん。」
目黒は苦笑しながら頭をかく。
「正直、ちょっとドキッとした。」
「えっ……。」
「もちろん、中身があべちゃんだからっていうのは変わらない。」
「でも、そのワンピースを着て嬉しそうに笑ってるあべちゃんを見たら……。」
目黒は少し照れくさそうに笑う。
「かわいいなって思った。」
その言葉に、阿部の頬は一気に熱くなった。
「そんなこと言われたら……恥ずかしい。」
「ごめん。」
「謝らなくていい。」
阿部はもう一度鏡を見る。
さっきよりも少しだけ、自分の姿が好きになれた気がした。
「……これ。」
目黒を見る。
「買いたい。」
目黒は優しく頷く。
「うん。」
「今日は必要な服を買いに来たけど。」
ワンピースを見つめながら続ける。
「これは、『今のあべちゃんが着たい』って思った服だから。」
阿部は嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう、めめ。」
「背中を押してくれて。」
その笑顔を見た目黒も、自然と笑みを浮かべる。
買い物袋の中には、三日分の着替え。
そしてもう一つ。
阿部が自分の意思で選んだ、初めての一着が大切にしまわれた。
コメント
4件

続きがあったらお願いしますm(_ _)m
一気読みしちゃった!!笑 🖤💚の優しい雰囲気が素敵🥹✨ 続きも楽しみにしてます😊

うー 少しづつ気持ちが落ち着いていっているのが素敵ずっーと横で優しく見守ってくれて 帰ってくる言葉が💚を安心さしているんだろうね。優しい気持ちになります。 続き気になります。待ってます♪
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