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「たぶん、今夜中に解決できると思います」
真帆さんは軽やかな足取りで戻ってくると、コーンを繋ぐバーをひょいっとひとっ飛びしながらそう言った。
「解決って、あのお月様のことですか?」
訊ねると、
「はい」
とにっこり微笑む真帆さん。
堂河内くんは「そう」と答えて、
「なにか、手伝えることある?」
「そうですね。ちょっとだけ力仕事になると思うので、夜、ここまで一緒に来てくれますか?」
「うん、わかった」
頷く堂河内くん。
わたしは何が何だかわからなくて、
「なになに? どういうこと? いったい何をするの? 何がわかったの?」
「簡単なことです」
真帆さんは少しだけ意地の悪い笑みを浮かべながら、
「でも、そうですね。今ここでそれを説明しても信じてはもらえないと思います。なので、タクミさんも今夜、お手伝いしていただいてもよろしいですか? 説明はその時に」
「ちょ、ちょっと真帆ねぇ、それは」
何故か慌てる堂河内くん。
それを見て、真帆さんは「ぷぷっ」と吹き出すように笑い、
「何をそんなに慌てているんですか?」
「だって、女の子を夜に連れ出すなんて、危ないじゃないか」
「そうですか? なら、翔くんが付いてあげてればいいだけですよ」
「いや、そういう問題じゃなくて」
「いやぁ、それにしても翔くん、モテモテじゃないですか。沙也加さんというものがありながら、こっちでもこんな可愛らしい彼女がいただなんて!」
「ち、違うよ! そんなんじゃないから!」
「あれぇ? 違うんですかぁ?」
と真帆さんはにやりと笑んで、
「ねぇ、タクミさん。タクミさんは翔くんのこと、どうですか?」
突然話を振られて、わたしだって焦らずにはいられない。
どうって言われたって、確かに久しぶりに会って堂河内くんの魅力にちょっと惹かれちゃったりもしているけれど、そんな、彼女だなんて――
「真帆ねぇ! タクミも困ってるじゃないか! からかわないでよ!」
眉間にしわを寄せて怒り始める堂河内くんに、けれど真帆さんは「アハハッ」と楽し気にひと笑いして、
「冗談ですよ! ごめんなさい、気を悪くしないでくださいね」
「あ、いえ、別に……」
わたしも両手を振ることしかできなかった。
「で、でも、夜ですか? 今からじゃダメなんですか?」
「昼間はこちらとしても不都合なんですよ。他人の目をずっと避けておくことも難しいですから、夜の方が人数も稼げて都合が良いんです」
「……なるほど」
夜の方が人数を稼げる? それなのに、他人の目をずっと避けておく必要があるって、矛盾していてなんだか全然わからなかった。
「タクミ、いいんだよ、別に」
「え?」
堂河内くんに顔を向けると、どこか心配そうに、
「もしかしたら、見ない方が良いものを見ることになるかもしれない」
「……それって、ヤバいものってこと? 犯罪とか?」
けれど堂河内くんはちょっと困ったように微笑しながら、
「全然、そんなんじゃないよ。でも、それを見てしまったら、びっくりして気を失っちゃうかもしれないね」
「それ、どういうこと?」
「こればっかりは説明が難しいなぁ」
堂河内くんは、だから、と小さく息を吐いて、
「無理しなくていいからね」
なんだかすべてをはぐらかされて、私だって気分が悪い。何があるのか知らないけれど、このまま何も知らずに終わるのも、なんだかすごく癪だった。
だからわたしは、あえて大きく首を振って、
「ううん。わたしも一緒に来る。何があるのか知らないけど、わたしも手伝うから」
「じゃぁ、決まりですね!」
それまで黙っていた真帆さんが、急にわたしの目の前に顔を近づけてにっと笑う。
「それではまた夜に、ここで会いましょう!」
なにもかも解らないまま、そういうことになった。