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「根本地区誘拐殺人事件及び、アベック殺害・死体損壊放火事件」
容疑者として浮上したのが児玉詩織であった。
遊ぶ金欲しさに、内縁関係にあった大村高広と誘拐を企て実行。
3人の小学生を殺害後に、身代金を要求するが未遂に終わる。
動揺した詩織は、大村と愛人を殺害。
愛人とされる木村美津子も、犯罪に加担していた。
その後、詩織は入水自殺を試みるが未遂に終わる。
美しき悪魔。
神奈川日日新聞社のキャッチコピーを、多くのマスメディアが引用し、事実を歪曲して報道した。
この記事を書いたのが里見丈太郎である。
神奈川県警記者クラブに出入りしていた里見は、紅林の情報屋として動いていた。
その里見丈太郎の不可解な死は、紅林を少なからずも動揺させ、当時の取り調べの光景は、夢に現れるようになったのだ。
容疑者を憔悴させて自白に追い込む。
紅林の聴取は徹底していた。
詩織に怒号を浴びせ、髪を掴んで引きずり回し、睡眠もろくに与えない。
トイレにも行かせずに失禁させ、罵倒を浴びせることで、詩織を憔悴させて洗脳した。
「俺だってこんな真似はしたくないんだ。だがな、仕事なんだよ。お前が罪を認めれば俺だって真っ当な人間に戻れるんだ。お前だってそうだろ、人間に戻ってしっかり反省して、もう一度やり直せ。そしたら俺は応援するから」
「…」
「やり直せ…」
「あ、あの…」
「なんだ?」
「戻れますか…人間に…」
「もちろんだとも」
「私、やり直せますか?」
「ああ、もちろんだ」
こうして詩織は自白したのだ。
今年で92歳になる紅林は、残り僅かな人生に、再び児玉詩織の記憶が蘇るなど想像もしていなかった。
煙草に火を付けて、真新しい日誌を開く。
夢の話を記しておこうと考えたが、紅林はふっと笑って呟いた。
「馬鹿馬鹿しい」