ベッドの中で、寄り添う彼の胸に、離れがたい思いで頬を当てる。
「そんなにくっついては、さっきも言ったように、君を離せなくなってしまう」
「いいの……」一言を返して、冷めやらない火照りを感じる頬を、厚みのある胸元により押し当てると、
「……こうして、いて」
いつまでだって抱いていてほしくて、彼に甘えてねだった。
「……わかった」
柔らかな笑みと共に腕の中に抱き込まれると、未だ上気している肌がぴったりと密着し合い、互いの温もりがじんと伝わった。
「君が言うのなら、いつまでもこうしている」
片腕に背中が抱かれ、もう一方の手で髪を梳かれると、ラストノート(汗や体温によって変わる余韻のような香り)のエレガントな白檀にバニラの仄かな甘さが、目近にふわりと匂い立って、その魅惑的な香気に満ちた彼の肢体に、虜まれてしまいそうだった──。
「……貴仁さん、寝物語に少し聞いてもいいですか?」
「ああ、なんでも構わない」
彼の返事を受けて、「……その、お付き合いって、今までどれくらいあって……?」ちょっと気になっていたことを、思い切って尋ねてみた。
彼はいつも付き合いは”あまりなくて”と口にしていたけれど、できれば恋愛経験は知っておきたかったことでもあった。
「そうだな……」と、彼が考え込むように顎の先に手を添える。
「実際付き合っていたと言っていいのかはわからないが、相手に押し切られた末に断われずにと言う態で何人かは……。ただそうして付き合いはしても、こちらの気持ちがなかなか追いつかず、向こうも段々に気が削がれて、いつの間にか疎遠になってしまう感じで……。今考えると、いくら押されたからとは言え、相手には申し訳なかったような思いにもなるが……」
彼の話を聞いて、改めてモテたんだろうなと感じる。
だって想像するだけでも、もし彼のような人が同級生にいたら、少女マンガのシチュじゃないけれど、窓際の席で物静かに本を読んでる姿とか、どうしたって女の子たちの注目の的になりそうだもの……。
「貴仁さんって、きっとよく人目を引いて、だいぶ女性陣から好かれていたんですよね……」
頭に浮かんだ感傷に、ポツリと呟く──。
自分から訊いたことな上に、過去に嫉妬をしても仕方がないとはわかっていても、なんだかふと落ち込み気味になるのを隠し切れないでいる私に、
「……君だけだ」
と、彼が一言を告げる。
「私が、本気で愛したのは……」
続けられたその先の言葉に、胸のざらつきが一瞬でさらわれていく。
「うれしい……。幸せ……」
彼の胸に鼻先を寄せ、仄かに漂う酔い痴れそうに甘やかな香りに顔をうずめると、一定の間隔で刻まれる鼓動と、しっかりと抱き留められている安心感に、とろりと瞼が下りて、いつしか心地のいい眠りに落ちていた……。
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