翌朝、目を開けると、私を腕に抱いたままで、彼はまだ眠っていた。
ふと寝顔が見たくなって、腕の中でもぞもぞと身じろいで顔を上げてみた。
高く通った鼻筋と伏せられた睫毛が、真近に迫って見える。
「本当に、王子様みたいで……」
思わず口に出して呟くと、もし童話みたいにキスをしたらどうなるんだろうという、ちょっとしたいたずら心が湧いた。
そーっと彼に顔を近づけて、形のいい唇に口づける。
すると、彼がふっと瞼を開いて、まだ眠たそうな気怠い眼差しをこちらに向けた。
「……うん? 今何を……?」
「……キスを」未だ寝ぼけ眼の彼に、唇を寄せて囁くと、
「えっ⁉」と、一気に目が覚めたという顔つきで、私をつぶさに見つめた。
「あなたが眠れる王子様みたいだったから、キスをしたらどうなるのかなと思って」
クスッと小さく笑って話す。
「……キスで目覚めるのは、王子ではなく、姫の方だろう?」
ほんのりと耳を赤くして、もっともらしく言う彼に、またクスリと笑みがこぼれる。
「では、王子様?」
ちょっとばかしお芝居風に呼びかけて、童話のお姫様のようなふりで、ベッドに手を組んで横たわる。
貴仁さんは、果たして成り切ってくれるかしらと思いつつ、
「姫にもキスを、してくださいませんか?」
幾分そわそわとした気持ちで問いかけた。
すると彼は、ほんの少し戸惑い気味に黙った後で、
「……。……ああ、私の姫に、キスを……」
そう密やかに口にして、ベッドから半身を起こすと、片腕に私を抱き寄せ、唇をそっと触れ合わせてくれて、まるで本物の王子様に口づけられたみたいに、うっとりと夢見るようにも感じた。
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