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リナ率いる猟兵は全員身軽なエルフの装束を身に纏っている。狩りや作戦行動を行う際に身軽で有用であることから愛用されているが、猟兵に属するエルフ達の装束には一般的なものとの違いが存在する。

先ず、彼女達の装束は全て暁仕立て屋工房でエーリカ達によって仕立てられている点である。

エーリカはマーサやリナ達から製法を学び、農園で作られた綿と本格的に始動した羊の放牧によって得られた羊毛によって作られた生地を用いて仕立てられている。

『大樹』の影響を受けた素材で作られた生地は軽くて頑丈な作りとなっており、彼女達の身を守っている。また最大の特徴は任務に合わせて数種類の柄がある点である。

一般的なエルフの装束は若草色を主体としているが、彼女達の装束はレイミから伝授された迷彩柄を採用しており、森林迷彩など用途に合わせて着替えることが可能となった。

今回は暗夜に溶け込むように真っ黒な生地で仕立てられた装束を身に纏い、更に彼女達の美しい白い肌は目立たぬよう炭で黒く染めていた。

一方同行しているアスカは普段から真っ黒なワンピースを愛用しており、小柄で素早い動きから闇夜に溶け込むのを得意としていた。犬耳しか特徴が無いとは言え、獣人らしく身体能力も高く戦闘に対して才能を発揮していた。

「アスカ、手伝ってくれる?」

「……ん」

「皆は待機してて、私達で片付ける。その後侵入するから」

リナはアスカと共に塀に身を潜めながら裏門へ近付く。そこには二人だけ残された見張りが居た。

「なぁ、俺達ここで暇してて良いのかよ?表は随分と騒がしいぜ」

銃声が止むこと無く響き渡り、更に怒号や悲鳴も混じっていた。

「ボスの命令さ、仕方ねぇだろ?誰かが裏から襲ってくるって考えてるのさ」

「理屈は分かるけど、正面が抜かれたら終わりだぞ?俺達はバカみたいに突っ立ってただけになる」

「そんなに行きたいなら行けよ。俺はわざわざ危ないところになんて行きたくないけどな」

「薄情な奴だな、仲間が気にならねぇのかよ?」

「ならねぇな。そもそも、うちみたいな組織が暁に喧嘩を撃ったのが間違いなんだよ。何年かで急成長した組織と、長年チマチマやってるだけの俺ら。どっちに勢いがあるか猿でも分かるぜ」

「おいおい、あんまりそんなこと言うなよ。幹部の誰かに聴かれたらエラいことになるからな」

「けっ。で?どうするんだ?」

「ちょっと様子を見てくる。すぐに戻るからよ、秘密にしといてくれ」

「はいはい、熱心な野郎だな」

一人が母屋に向かってその場を離れる。そのチャンスを密かに迫る二人が見逃す筈がなかった。

素早く忍び寄る二人は、視線だけで合図をして二手に別れる。

「ったく、真面目な野郎だな。こんなのは適当……で……?ごぷっ!?」

見張りの男は胸から突き出た刃を見て目を見開き、口から吐血しながらその命を散らした。

密かに背後から忍び寄っていたリナが脱力した男から短剣を引き抜くと、見張りの男はそのまま倒れる。その死体を速やかに物陰へと隠した。

一方母屋へ向かったもう一人は、途中で思い返して引き換えそうと踵を返す。

「ん?あいつ何処に行った?……んぐっ!?」

背後から飛び掛かったアスカが右の首筋に短剣を突き立て、そのまま体重を乗せて一気に奥まで押し込んだ。ドルマン手製の短剣の刃は容易く骨を貫き、そのまま心臓を両断。瞬時に命を奪い去った。

ピョンっと地面に降り立つアスカ。その背後では男が地面に倒れ伏した。

「よし」

リナが手を振ると、九人のエルフ達が闇夜から現れる。

「各階三人ずつ、基本は敵を見たら確実に仕留めて」

「了解」

「任せて」

「私とアスカは遊撃として、リンドバーグを探す。くれぐれも無茶はしないで。代表が泣いちゃうからね?」

リナの言葉に皆が笑みを浮かべる。小さなボスはエルフ達にも愛されているのだ。

そして三人一組で母屋へと侵入、正面の部隊と交戦中の敵を背後から襲撃するために行動を開始した。

「リンドバーグの居場所、何処か分かる?」

「……こっち」

アスカは自分の勘を頼りに移動を開始。アスカの勘は頼りになるとシャーリィに聞かされていたリナは、なにも言わずその後を追う。

一方屋敷の正面では激しい銃撃戦が継続していた。リンドバーグ・ファミリーの必死の抵抗により暁本隊は母屋へと辿り着けず、庭園に展開して応戦していた。

「くそっ!戦車さえ持ち込めれば早々に撃破できるものを!」

破壊された噴水の影に身を潜めながらマクベスは忌々しそうに言葉を漏らす。

「戦車は強力な兵器ですが、運用上に課題が残りますな」

側に居た士官が、その呟きに答える。

「全くだ。お嬢様が用意してくださった玩具は高価だからな、有効に使えねば無能の証明だ」

すると、三階からの射線が一つ静まり返る。

「むっ?当たったか?」

「いや、違います。閣下、あれを」

士官が指差した先では、窓の一つからエルフが顔を出して手を振り、また顔を引っ込めた。

「どうやら猟兵が潜り込めたようだな。奴等に悟られるな!射撃速度を上げよ!」

「はっっ!!!」

マクベスの号令に従い各員が射撃速度をあげる。精度よりも弾幕を意識した射撃は、必然的にリンドバーグ・ファミリーからの射撃頻度の低下を招いた。

最新の軍事学や戦訓を採り入れて厳しい訓練を繰り返した暁戦闘部隊は、近代的な軍隊へと成っていたのである。

母屋の一階では、ベルモンドとカテリナが敵を引き付けつつ応戦していた。

「これで何人目だ?」

ナイフを投げて一人を仕留めたベルモンドが、遮蔽物に身を潜めながら問い掛ける。

「……覚えていませんね。それと、残弾が心許なくなりましたよ。無駄撃ちをし過ぎましたね」

マガジンを切り替えながらカテリナは答える。速射性能の高いオーパーツであるAK47ではあるが、扱いにまだ完全に慣れていないカテリナは、無駄な射撃が多く弾薬の消費を加速させてしまった。

「それはとても嬉しくない知らせだな……いや、もう十分かもな」

静かになった一階で、ベルモンドが観察すると彼らを攻撃していた構成員達が次々とエルフに倒されるのが見えた。

「……上手くいきましたね」

「ああ、後はリンドバーグを仕留めるだけだな」

屋敷の二階にある執務室で、リンドバーグは静けさを取り戻した屋敷で己の運命を悟った。

「ふっ。下手な小細工をしなければ、我々は生き残れたかもしれないな。最後の最後で下らないプライドが邪魔をしたようだ」

何処か諦めたようにリンドバーグは部屋へ乗り込んできたリナとアスカを見る。

「代表は慈悲を示そうとしたわ。それを断ったのは貴方よ、リンドバーグ」

「……シャーリィの敵」

「エルフに、獣人か。まさか亜人種を飼育しているとは思わなかったな」

二人を見てリンドバーグは呟く。

帝国では人間以外の種族を亜人種と呼び、差別する風習が根強く存在する。亜人種に関しては奴隷にしても良いとの法が存在するためである。

それを口にしたリンドバーグを、リナは心底哀れむように見つめた。

「そんな見方しか出来ないから、貴方は代表に負けたのよ」

「それが若さか……」

そう呟いた瞬間リナとアスカが飛び掛かり、リナは頭に、アスカは心臓に短剣を突き立てた。

三者連合最後のボスは、最後の最後に選択を誤りその命を散らしたのである。

その後、ベルモンドが死体を確認。リンドバーグ本人であることを断定した。

暗黒街のお嬢様~全てを失った伯爵令嬢は復讐を果たすため裏社会で最強の組織を作り上げる~

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