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「弟に助けてもらうから返事はしなくていいって思ってるんか?」
「部長……」
「楽でいいな。お前は」
「そんなこと、ありませ、」
「真は、有沢の子どもなんだ」
急に真面目な顔になって、そう言うと、私の顔を覗きむ。
へ……?
有沢さんが?
真君の??
でも、保育園で会ってもお互い面識なさそうなのに?
侑哉からの電話が鳴り響く中、取る余裕なんてないぐらい動揺してしまう。
「じょ、冗談ですよね?」
へらりと間抜けに口をよがませて笑うと、気の抜けた声でそう言ってしまった。
「冗談なもんか。腹が立つが俺が引き取ったから、有沢は俺には頭が上がらね―んだよ」
――あっ
有沢さん、私にも伝えたいことがあるって言ってたけど、この事だったのかな。
真君の置かれた環境が複雑すぎて、いよいよ眉をしかめてしまう。
「あんな涼しい顔して次もまた若い女狙ってるから、懲りね―よな。応援してやりたいが、信用はしてない」
「なのに、合コンなんてしたんですか?」
部長の考えている事が分からないし、真君も愛情はあるみたいだけど離れて暮らしてるし、色々と理解できない。
「お前とゆっくり話す為だろう?」
「!?」
そこ言葉に少しだけ、嫌な胸のざわめきがする。封印してあきらめたはずの感情がぐずぐずと動きだしそうな。
真君や有沢さんの事を利用して私の気持ちを聞きだそうとしているのか、
――真君の様子を見に来たついでに私の事を気にかけてくれているのか分からないのに。
ズルイ
でも。
『――みなみを見てると、イライラする! 嫌ならもっとはっきり断れば良いんだ。俺、みなみが断らないなら俺がビシっと言うから!』
結局何も話さないまま、ズルズルと部長と会ってしまうと、侑哉に心配をかけてしまう。
人に何か言わなくても、先回りして代弁してくれた侑哉。
けど、それじゃあ、あの夜に閉じ込められたまま。
「私の気持ちは、部長や有沢さんみたいな人には、り、理解できないと思います」
『そんなんじゃ、みなみ、ずっと幸せにならないから! 俺とずっと居たいならいいよ! 別に!』
怖い。怖い怖い怖い。
部長みたいにはっきりすっぱり言える人にはどう言われるか分からないけど、怖い。
「デリケートな話なので、お願いですから関わらないで頂けますか!」
そう絞るように声を出すと、思いのほか大きな声が出た。
自分でもびっくりしたけど、怯んでなるものか。
「お」
部長は何か言いかけると、下を向いて無言になった。
理解して、気まずくなってくれた……わけではなく。
「お前、くっ。おもしろ」
お腹を押さえて笑い出す!
いや、笑いを堪えようとお腹を押さえているけど笑ってる!
「ば、馬鹿にしないで下さい! 私は本気で悩んでるんですから!」
「俺も本気で笑ってんだって」
む、っむかー!!!
せっかく勇気を出しても、真剣に言っても、届かないなら勇気を出した意味がない。
頑張ったのに、――悔しい。
「ばっか、何泣きそうな顔してんだよ」
「な、泣いてません! 部長が、馬鹿にするから」
慌てて顔を下に向けながらも、今にも泣き出しそうな顔を隠して震える声でそう言う。
ふーっとため息混じりに部長は笑うと、髪をかきあげる。
「可愛いなって思ったんだ。一生懸命喋るみなみが」
「かっ!?」
「わりぃな」
可愛いなんて、今まで言われた事がないので、フリーズしてしまった。
私が? 聞き間違い?
「ほら、そうやって勝手にいつも自己完結すんのに、ちゃんと自分の気持ちも言葉に出来るんだろ?」
「ほ、本当に、デリケートな話だから、言えないんです!」
「いいよ。そこまで言えない内容なら、言えるぐらいの仲になればいいんだろ?」
あっさりそう言うと、下を向く私の頭を、優しくポンポンと叩く。
「いっつもクソ真面目で言いたいことも我慢して下向いて、さ。
そんな姿も維持らしくて庇護欲がそそられるけど、俺はもっと自分を曝け出して欲しかった」
ズルイ。ズルイズルイ。
「俺の扱きに泣かないお前を、もっと知りたかったんだ。――みなみ」
――ズルイ。
いっつも怖くて、営業と裏の顔が違ってて、近寄りがたい部長だったのに。
どうしてこんなに胸の中に侵入しようとしてくるんだろう。
欠陥品なの。誰にも恥ずかしくて言いたくないの。
――誰にも見つかりたくないの。
唇を噛み締める私と、黙って頭を撫でる部長。
いつの間にか携帯も着信が止み、静かになっている。
部長は確かに怖いけど、後ろを着いて行くのには安心できる、頼りになる人だった。
言ってることも間違いではなかったから、怖くても怒られた事は素直に従った。
――でも、この思いは共有することも共感することもできない。
話してって、気を使わせてしまうだけなんだもん。
「お前が何をぐだぐだ悩んでいるか知らないが、言いたくなったら聞いてやるから」
「……」
「じゃあ、言わせるから」
何でそんなに自信満々なんだろう。そんなに私は意志が弱くて、部長に簡単に話してしまうような人に見えるのだろうか。
「お前が恋愛から逃げれる理由も一緒なんだろうし。あんなクソ野郎に未練があるわけでもなさそうだしな」
部長はそう言いながらも、それ以上は聞いてこなかった。
一歩だけ近づいたけど、私の傷が見える部分には踏み込まない。
あの人を殴った部長なら、『欠陥品』だと言った彼の言葉を理解しているはずなのに。
言わせたいのは、認めさせたいのかもしれない。