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第一話、すごく好きな世界観でした……。夕方の冷たい潮風の感じとか、由良ちゃんの「海に呼ばれてる」感覚、すごく共感しながら読んだよ。最後に出てきた彼の「鯨の唄が」ってセリフ、ゾクッとしちゃった。二人だけが聞こえる何かがあるって、それだけで胸がぎゅってなる。続きがすごく気になる……!
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海の匂いがする。
朝でも、昼でも、夕方でもない。
町が一日の終わりを迎えようとする頃、潮風は少しだけ冷たくなる。
その時間が、私は好きだった。
学校からの帰り道。
家へ向かう交差点を、今日も私は曲がらない。
足は自然と、海へ続く坂道を選んでいた。
誰かに言われたわけじゃない。
理由があるわけでもない。
ただ、この時間になると胸の奥がそわそわして、海を見に行かなきゃいけないような気持ちになる。
昔からそうだった。
「由良、また海?」
後ろから声をかけられ、振り返る。
同じクラスの女子が苦笑いを浮かべていた。
「うん。」
「飽きないねぇ。」
「……うん。」
それ以上の言葉は出てこない。
友達が嫌いなわけじゃない。
でも、この気持ちを説明する言葉を私は持っていなかった。
海が好き。
それだけじゃ、きっと足りない。
坂道を下るたび、潮の香りは少しずつ濃くなる。
波の音が近づいてくる。
その瞬間だけ、胸の奥が静かになるのだ。
子どもの頃から変わらない。
私は海を見ている時間が好きだった。
いや──
海が、私を呼んでいる気がしていた。
そんなことを幼い頃、母に話したことがある。
『なんかね、呼ばれてる気がするの。』
そう言うと、母は笑って、
『海が由良のこと好きなんじゃない?』
と返した。
でも祖母だけは違った。
優しく頭を撫でながら、
『そういう子もいるんだよ。』
そう呟いた。
その意味を、私はまだ知らない。
海へ着くと、防波堤に腰を下ろす。
夕日は水平線へゆっくりと沈み、空は橙色から藍色へと溶けていく。
町は静かだった。
昔、この海には鯨が現れたという。
今では誰も見たことがない。
それでも、町の古い案内板には今も小さく書かれている。
――”“「鯨の海へ、ようこそ。」””
風が吹いた。
髪が揺れる。
その時だった。
ふわり、と。
波の音とは違う。
風とも違う。
どこか遠くから、懐かしい歌が聞こえた気がした。
低く、静かで。
胸の奥まで響くような音。
私は目を閉じる。
この歌を聞くたび、不思議と涙が出そうになる。
嬉しいわけでも、悲しいわけでもない。
ただ、誰かを思い出しそうになるのだ。
「……今日も聞こえた。」
小さく呟いた、その時。
「君にも聞こえるんだ。」
声がした。
驚いて振り向く。
少し離れた防波堤に、一人の男子生徒が立っていた。
夕暮れを背にしているせいで表情はよく見えない。
でも、その瞳だけはまっすぐ私を見つめていた。
「その唄。」
一歩、風が吹く。
波が静かに砕ける。
彼は穏やかに笑って言う。
「”“鯨の唄が。”“」
その瞬間、世界から音が消えたような気がした。
私しか知らないと思っていた”あの音”を、この人も知っている。
潮風が二人の間を静かに通り抜けていく。
夕焼けはゆっくりと夜へ溶け始めていた。
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