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#Paycheck
ゆゆゆゆ
ゆゆゆゆ
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後ろから抱きしめられたまま。
チャンスの腕は離れない。
そのまま——
エリオットの頬に、軽くキスが落ちる。
一瞬。
でも、はっきり残る温度。
エリオットの手が止まる。
生地に触れたまま、ぴたりと。
少しだけ目を細めて——
ゆっくり振り向く。
距離が近いまま。
そのまま、軽く。
ほんの触れるだけのキスを返す。
一瞬で離れる。
「……わかったから」
小さく息を吐く。
少しだけ照れたような、でも余裕を崩さない顔。
「ちょっと待って」
そう言って、するりと腕の中から抜ける。
チャンスの腕が一瞬だけ空を掴む。
エリオットはそのまま台に向き直って、
生地にラップをかける。
丁寧に、空気を抜きながら。
やけに、ゆっくり。
「……」
チャンスは何も言わない。
でも、視線は外さない。
エリオットはそれを分かってる。
分かってて、わざと急がない。
ぴっちりとラップを押さえて、
端を整えて、
無駄にもう一周確認して。
「これでよし、と」
小さく呟く。
次に、蛇口をひねる。
水の音が流れる。
粉だらけの手を、ゆっくり洗い始める。
指の間、手のひら、手首まで。
やけに丁寧に。
時間をかけて。
「……長い」
ぽつりとチャンスが言う。
エリオットはちらっとだけ振り返って、
くすっと笑う。
「ちゃんと洗わないとでしょ」
また前を向く。
泡を落として、
タオルで拭いて——
それでも、まだ終わらない。
指先を軽く見て、もう一度だけ水を流す。
完全に、わざと。
チャンスの気配が、じりじり近づく。
背後に立つ。
でも、触れない。
エリオットはタオルを畳みながら、
「そんな顔しないでよ」
と軽く言う。
「待てないの?」
振り向く。
その目が、少しだけ意地悪に細い。
「さっきまで我慢してたくせに」
チャンスの眉が寄る。
「……お前がやらせてんだろ」
エリオットは一瞬だけ黙って、
それから、ふっと笑う。
「そうかもね」
タオルを置く。
一歩、近づく。
今度は、自分から。
「でもさ」
距離を詰めて、見上げる。
「ちゃんと待った方が、いいでしょ」
低く、柔らかい声。
さっきまでの軽さとは違う。
少しだけ、本音が混ざる。
チャンスは何も言わない。
ただ、じっと見てる。
エリオットはそのまま、あと一歩だけ近づいて——
「ほら」
小さく囁く。
「もういいよ」
さっきまでの“待って”を、自分で回収する。
逃がさない距離で。