第3話 終末のラビエンス
「待ってください!!!」
僕は混乱しながら、とにかく叫んだ。
あまりにも大きな声だったらしく、
レミーの手が止まった。
「最期にこのスクラップだけ、Cブロックに持って行かせてください!」
「後は・・・・任せます」
僕はそう言う。
自分が死ぬという現実を突き付けられて、震えが止まらない。
レミーは銃を構えたまま涙目で叫んだ。
「あーーー!!くそっ」
レミーはポケットから注射器を取り出し、僕に刺した。
「感染の浸食を一時的に抑える薬だ。ただ引き延ばすだけだ。その後はどうしようもできない。わかってるよな」
「・・・はい・・・」
僕はまだ現実を受け入れなかった
(たかが体液、感染なんてしてない・・)
レミーは続ける
「ラビエンスに戻らない方がいい。後悔するだけだ」
僕は彼の話を取り合わなかった。
(だって自分の故郷なんだから)
僕はラビエンスに走りだした。
Cブロックのゲートが見えてきた。
警備兵が見える。
「よおネロ、早かったな・・・・なにかあったのか??」
僕は平常心を保つ努力をした。
寒さの中、汗だくになった手を握りしめる。
「大丈夫です。ちょっと疲れただけです。入っていいですか?」
「ダメだ」警備兵が言う。
「マスクもフィルターも、ただじゃないだぞ。もっとスクラップを集めてこい。お前はもう労働者だ」
言われている意味が理解できなかった。
僕には時間がない。せめて・・
「でしたら、これをカミラに渡して貰えますか?」スクラップを見せる。
「無理だ。お前はまだ居住代がある」
警備兵が腕を組む。
なにを言っているのか、解らない。
警備兵が続ける。
「ネロ、お前には16年分のスクラップ代が残っている。これは代金として徴収する」
集めたスクラップをとられると思った。
僕は必死にスクラップを取られないように抵抗して、抱き込む。
「ちゃんと集めてきます。先にこれだけをカミラに届けてください・・」
警備兵は僕を殴りつけ、蹴り飛ばす。
「ぐはっ!ゲホゲホ!」
スクラップは取られてしまった。
「あと8時間は探してこい」
警備兵が去っていく。
僕はどうしても、渡したくなくて警備兵に必死に喰らいついだ。
・・・気が付けば僕は冷たい雪に埋もれていた。
「ザク・・ザク」
誰かが近づいてくる。
「ネロ、生きてるか?」
レミーの声だった。
僕は死と絶望の中、なにも話す気になれなかった。
レミーはうつ伏せになった僕をゆっくりと持ち上げる。
「!?お前その目は・・・」
ぐったりした僕を担ぎ、どこかに連れてかれる。
(どうせ死ぬんだ・・どうでもいい)
僕は身を預けてしまった。
「おい、ネロ。起きろ」
僕は静かに目を開けると、目の前に焚火が見えた。・・・暖かい
「だから、ラビエンスにはいくなと言ったはずだ。あそこは傍から見れば強制労働施設だ」
「・・・でも僕の親はそこに連れていってくれたんだ」弱い声で訴える。
「あそこは変わってしまった。指導者が変わってから、ラビエンスは保護施設というより、牢屋になってしまった」
レミーはやけに詳しい。
もうこれ以上悲しいことは聞きたくない。
「・・・殺してください」
ボロボロの身体で僕は言う。
レミーは無言のまま焚き火に暖まりながら、そっと眼帯を外す。
その目はプラウラーの目の色だった。
「ネロ、聞かせてくれ、お前はこれからなにをしたい?」その目が鋭く刺さる。
「もし生きられるなら、旅もしたいし、ラビエンスを解放したい・・・夢物語ですけどね」
レミーが近づいてくる。
僕はそっと目を閉じて、カミラのことを思い浮かべる。
(ごめんね、カミラ)
「ネロ・・・お前はこれからこの世界に影響を及ぼす存在にもなれる」
「この先、旅をして世界を知りたいならこの注射器を受け入れろ。それかここで無力に死ぬかだ」
レミーの話についていけないし、聞く気力もない。
「・・・僕は生きたい・・カミラ・・」
僕はぐったりして倒れ込む。
・・・プス・・
なにか刺されたと感じた瞬間
とてつもない激痛が走り、
身体が勝手にバタバタ動く。
呼吸すらまともにできない。
遠のく意識の中、レミーが誰かと連絡をとっている。
「こちらレミー。16歳のブライトを発見した。・・・・ああ、注射はした・・・
俺たちの希望になるかもしれない。回収を頼む」
薄っすら聞こえるレミーの声を最後に意識が飛んでしまった。
幾日経っただろうか
目を静かに開けると、プラウラーを始めとする感染動物と人が入り混じる
Barにいた。
(続)
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