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玄関を出る。
朝の空気は、少しだけ冷たかった。
「……」
見慣れた道。
見慣れた家。
見慣れた電柱。
なのに。
どこか知らない場所を歩いている気がする。
『……』
頭の中の俺も黙っていた。
「どうした?」
『いや』
「?」
『……変な感じするな』
「やっぱり?」
『うん』
それ以上は言わなかった。
二人とも。
同じ景色を見ている。
なのに。
同じものを見ているはずなのに。
俺には「懐かしい」。
こいつには「いつものこと」。
その違いが、妙に不思議だった。
学校が見えてくる。
校門。
昇降口。
廊下。
教室。
何もかも。
俺が知っている学校と同じだった。
「……」
でも。
教室の扉を開けた瞬間。
違和感があった。
何人かの視線が向いて。
すぐに逸れる。
「おはよう」
『おはよう』
俺と頭の中の俺が、ほぼ同時に呟いた。
「いやお前は喋ってねぇだろ」
『心の中で言っただけ』
「紛らわしい」
席に座る。
机も同じ。
窓際の後ろから二番目。
当たり前のように見覚えがある。
「……」
けれど。
俺の知っている教室とは違う。
俺の知っている人間がいない。
正確にはいる。
でも。
”知らない人間として”、いる。
「ん?」
『なに?』
「この世界の俺、友達いないんだよな?」
『いないね』
「じゃああいつらは?」
『クラスメイト』
「なるほど」
『当たり前だろ』
「いや、俺の世界だとクラスメイトになったら友達になるのが普通だったから」
『……贅沢だな、お前』
「どういうこと?」
その時。
教室の後ろから声がした。
「らっだぁさん」
「ん?」
振り向く。
そこにいたのは。
見慣れた顔だった。
「……」
ぐちつぼ。
昨日、電話で話したばかり。
でも。
実際に会うのは初めてだ。
「おはようございます」
「おー! おはよ、ぐちつぼ!」
反射的に笑う。
一歩近付く。
「昨日ぶり!」
「……」
ぐちつぼが固まった。
「⋯っえ、」
頭の中で声がする。
『だから言ったじゃん』
「何を?」
『俺、こいつとあんま仲良くないって』
ぐちつぼが困ったように眉を下げる。
「……昨日、そんな感じでしたっけ」
「え?」
「なんか……」
少し考えるように。
「今日、距離近くないですか?」
「え、そう?」
「そうですよ」
「いやいや、友達ならこんくらい普通だろ」
「……友達?」
その一言で。
空気が止まった。
『……』
頭の中の俺も黙っている。
「……」
ぐちつぼは困ったように笑った。
「俺たち、そんなに仲良くないですよ」
胸の奥が。
少しだけ痛んだ。
分かっていた。
昨日の電話で。
もう聞いていた。
なのに。
実際に言われると。
思っていたより、ずっと。
つらい。
「……そっか」
笑ってみる。
「ごめん、なんか勘違いしてたわ」
「いえ……」
ぐちつぼが去っていく。
その背中を見ながら。
頭の中の俺が、ぽつりと言った。
『……な?』
「……うん」
『これが、俺が今まで生きてきた世界』
「……」
『似てるかもしれないけど、お前の知ってる世界じゃない』
窓の外を見る。
青い空。
いつもと同じ朝。
いつもと同じ学校。
いつもと同じ、俺。
なのに。
何もかもが。
少しずつ違っていた。
『……なぁ』
「ん?」
『お前の世界でさ』
少しだけ。
その声が小さくなる。
『お前は、どんな奴だった?』
「……」
答えようとして。
やめた。
だって。
その答えを話すには。
俺の世界にいた「俺」のことを。
俺が、もっと知らなきゃいけない気がした。
「……あとで話す」
『……うん』
その返事が、ぼんやりと頭の中に響いた。
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コメント
2件
それは悲しすぎるよぉ…… 親友だった奴に仲良くないなんて言われたら私泣くよ?! てかこっちのらっだぁぼっちなのか(´・_・`) 続き楽しみに待ってます✨