セレノは王族という血のお陰で周りからとても大切にされてきたけれど、その代償のように髪色だけは常に赤に染めさせられてきた。
それが自分を守るために選択された措置だと分かっていても、民衆を偽っているようで嫌だった。
目の色だけは素のままで過ごしてこられたけれど、それだって悪く言う者がいたことは否めない。
(彼女は……嫌な思いはしなかったんだろうか)
自分が欲しくてたまらなかった、バーガンディーの髪にマラカイトグリーンの瞳。だが、それは自分がマーロケリーの人間だから思うことに過ぎない。きっと、イスグランで生まれ育った彼女にとって、その色は忌み色でしかなかったはずだ。
窓辺の光が、リリアンナの髪の上で溶けるように踊っている。
なのに目の前の彼女は、そんな卑屈な様子なんて微塵も感じさせない凛とした様子でそこにいた。
ふわふわのウエーブが掛かった髪も、この上なくマーロケリー国民らしいのに、だ。
「……セレン卿?」
ランディリックの、穏やかだがどこか冷やりとした声が空気を裂く。
彼の瞳が一瞬だけ鋭く光り、セレンは慌ててリリアンナから引いたカードと自分のカードとを照合した。
「失礼。……慣れない旅のせいか、少しぼんやりしてしまっていたようです」
「そうですか」
短い応答。たった一言なのに空気がわずかに張り詰めているのが感じられる。
その緊張感あふれる空気の中で、リリアンナだけがまるでそれに気付いていないかのようだった。
だが、セレン――セレノの声に思うところがあったのだろう。申し訳なさそうに「ごめんなさい、セレン様」と告げてきた。
「え?」
予期せぬ謝罪にセレンがキョトンとしたら、「私が無理を言って遊びに誘ってしまったから」と、リリアンナがしゅんとする。
「いや、謝らないで下さい。僕も一人で退屈していたのですから」
セレンが慌てて言い募ると、ランディリックも「リリーは気を遣い過ぎなんだよ」と加勢してくれた。
セレンはランディリックのリリアンナに対する態度を、どこか養い親としてのもの以上の含みを感じずにはいられない。
だが――。
所詮は養父――後見人と養女だ、と考えて、その想いに自分自身苦笑する。
汽車の車輪が規則正しく刻む音が、まるで鼓動のように三人の間を満たしていた。
そのリズムに合わせるように――誰にも悟られぬまま、ひとつの〝想い〟が静かに形を成しはじめていた。
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