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日和高校、雪解けの予感:転校生と太陽の少女の物語 第1話
春まだ浅い頃、日和高校の玄関をくぐった陽空の胸には、期待よりも不安が大きく膨らんでいた。地元の学校では、いつもどこか居場所がなく、息苦しさを感じていた。新しい環境なら、何か変わるかもしれない。そう思って転校してきたものの、いざ目の前に広がる見知らぬ教室とざわめきに、陽空はすぐに自分の立ち位置を見定めてしまった。
「また、ここでも隅っこなんだろうな…」
教室のドアを開ける前から、陽空は諦めにも似た感情を抱いていた。自己紹介は、当然ながらぎこちないものになった。そして、担任の先生が陽空の席を指し示した時、陽空は思わず息を飲んだ。そこは、窓際の一番後ろの席。そして、その隣には、すでに真穂が座っていた。陽光のような真穂の隣に、自分のような隠キャが座るなんて。陽空は、心臓がバクバクと鳴るのを感じながら、真穂の視線を避けるように、そっと席に着いた。
分厚い前髪の奥から、そっと視線を送る。教室の中心で、男子生徒たちに囲まれて笑っているのは、クラスの人気者、真穂だ。明るくて、誰にでも優しくて、太陽みたいに輝いている真穂は、陽空とはまるで違う世界に住む存在だった。その輝きは、陽空にとっては眩しすぎて、直視することすらできなかった。
陽空は、クラスの中では「見えない存在」だった。話しかける相手は数少ない。転校してきてからしばらく経ち、数少ない友人の一人が、隣のクラスの朱槻だ。彼とは、偶然図書室で席が隣になり、読んでいる本の趣味が合ったことから、少しずつ言葉を交わすようになった。
「おい、また真穂見てんのか? もう好きって言っちまえよ、いっそ」 昼休み、陽空の隣に座った朱槻が、フライドポテトをつまみながらニヤニヤとからかう。 「無理だよ、俺みたいなのが真穂に話しかけたら、多分空気も震える」 陽空は自嘲気味に笑った。転校してきたばかりで、まだクラスに馴染めていない陽空を、数人の陽キャグループが面白そうにチラチラと見ているのが分かった。彼らは、陽空にとって最も避けたい存在だった。