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ゆうき あきや
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友ゴリラ
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第211話:面接サバイバル二日目〜電波ギリギリの野生児〜
北海道、帯広市。
家賃四万円、築三十年の隙間風が吹き込むボロアパートの四畳半。
本日も、株式会社インフィニティ・ワンの社運と、俺の命を懸けた『やまむすめ』オーディションのオンライン面接が再開されようとしていた。
俺——代表取締役社長、秋谷雪(40歳)は、部下のポケットマネーから配給された最安値の玄米を胃袋に流し込み、パソコンのモニターを血走った目で睨みつけている。
エウリアン(絵画商法)に騙されて背負った、総額500万円の極悪ローン。
日本の税法に縛られた月給10万円の役員報酬。
手取り残金からローンを引かれ、1日あたり約330円で生き延びる限界ヒモ社長の俺が、この地獄から這い上がるための唯一の希望が、北海道の大自然を無料スタジオとしたアウトドア特化型VTuberプロジェクトだ。
昨日の面接前半戦は、まさに魔境だった。
エゾシカの死骸と一緒にダブルピースを決めるガチの猟師、タランチュラの串焼きを貪る昆虫食サバイバリスト、四十キロの荷物を背負ってヒマラヤを登るアルピニスト。
エンタメの枠を完全に超えた戦闘集団の襲来に、カメラマン兼荷物持ちとしてタダ働きする予定の俺は、完全に心をへし折られていた。
『ルシフェル様、現実逃避は終わりましたか? 面接二日目、後半戦のスケジュールが始まりますよ』
ディスコードの向こうから、我が社の冷徹秘書・結愛(ゆあ)の氷のような声が飛ぶ。
「わかってる。わかってるけど……怖いんだよ! またヒットマンみたいな奴が来たらどうするんだ! 俺は元・陸上自衛隊の需品科とはいえ、今は塩昆布とパサパサの玄米しか食べてない40歳の貧弱なオッサンなんだぞ! あんな超人たちと山に入ったら、開始五分で俺の心臓が破裂する!」
俺が半泣きで訴えると、最強AIアシスタントのジェミニ先生が冷徹なデータを突きつけてきた。
『ルシフェルさんの現在の体力係数をベースにシミュレーションした結果、昨日の候補者たちに同行した場合の社長の生存確率は平均して約5パーセントです。ヒグマに遭遇する前に、過労で滑落死する確率が最も高くなっています』
「ほら見ろ! 俺が死ぬ前提の企画になってるじゃないか!」
『自業自得です。貴方が「虫が平気」「体力オバケ」「ヒグマを威嚇できる」などという狂った募集要項を出したからでしょう』
結愛は容赦なく俺の自業自得を指摘する。
『泣き言を言っても借金は減りません。さあ、気を取り直して本日の第一候補者をルームに入れますよ。……入室許可、ポチッとな』
強制的にオンライン面接のツールが立ち上がり、画面がパッと切り替わった。
「こ、こんルシ。インフィニティ・ワン社長のルシフェルです。ええと、本日は面接にお越しいただき——」
俺が台本通りの挨拶を口にしかけた瞬間、画面に映し出された光景に言葉を失った。
ザァァァァァ……。
画面全体を覆い尽くしているのは、鬱蒼と生い茂る木々の葉と、不気味なほど薄暗い森の風景だった。
そして、映像の画質が信じられないほど粗い。十年前のガラケーの動画機能かと思うほど、ピクセルがガビガビに荒れている。
「……え? なんだこれ。背景が森? バーチャル背景か?」
『……あ、あ、テ、テスト。ルシフェルさ、聞こえ、ます、か!』
スピーカーから聞こえてきたのは、ブツブツと途切れるノイズまじりの女の子の声だった。
「き、聞こえてるけど、映像がカクカクだし、声も遅れてるぞ! 君、今どこから繋いでるんだ!?」
画面の中の女の子が、カメラに顔を近づけてくる。
迷彩柄の帽子を被り、顔には泥のペイント(あるいは本物の泥)を塗った、年齢二十歳前後の野性味あふれる少女だった。
『今、ですか? 今は、大雪山系の……標高、千五百メートル付近の……獣道を、登って、います!』
ザクッ、ザクッ、という規則正しい足音が、ワンテンポ遅れてスピーカーから響く。
「はぁ!? 獣道!? 面接中になんで山を登ってんだよ!! 家でやれよ!!」
俺は三万円のゲーミングチェアから身を乗り出し、画面に向かって絶叫した。
『だって、オーディションの条件に……「10キロの荷物を背負って、山を駆け上がれる体力オバケ」って……あったじゃないですか! だから、今、証明しようと、思って……!』
彼女がカメラの角度を変えると、その背中にはパンパンに膨れ上がった巨大なリュックサックが括り付けられていた。
『これ、中に……薪と、石を詰めて……ちょうど15キロにしてあります! 今、斜度三十度くらいの崖を、登りながら……面接、受けてます!』
「バカかお前は!! そんな状況で面接受ける奴がいるか! 落ちたらどうするんだ!」
俺の常識的なツッコミも、山の悪電波のせいで彼女には数秒遅れて届いているらしい。
『ふうっ、ふうっ……。あ、社長さん! ちょうど今、顔に、デカいアブが、止まりました!』
「えっ!?」
バチンッ!!
画面の中で、彼女は顔の横を勢いよく素手でひっぱたき、そのまま何かをカメラの前に突き出してきた。
『条件の、「虫を素手で掴める」……クリアです! アブ、潰しときました!』
「見せなくていい!! グロい!!」
『……ルシフェル様。映像は乱れていますが、彼女の身体能力と環境適応能力は本物です。現時点で、募集要項の半分を完璧にクリアしていますよ』
ディスコードの裏回線で、結愛が感心したような声を漏らす。
『ジェミニ先生、彼女の現在地の電波状況は?』
『GPS情報を解析。彼女の現在地周辺は、大手キャリアの電波エリアの完全に圏外です。かろうじて反射波を拾って通信を維持している、奇跡的な状態です』
「奇跡的な状態ってなんだよ! そんなどこで途切れるかわからない電波で、会社の未来を懸けた面接をするな!!」
俺が頭を抱えていると、画面の向こうの野生児が、突然ピタリと足を止めた。
ガサッ、ガサガサッ。
ノイズ混じりの音声の中に、彼女の足音とは違う、何かが藪を漕ぐような重い音が混じった。
『……あ』
野生児の表情が、一瞬にして険しいものに変わる。
「おい、どうした!? 何かあったのか!?」
『社長さん。……風下に、何かいます。獣の臭いがします』
「は!?」
『募集要項の最後の条件、「ヒグマが出ても威嚇できる」……今から、実証してきます!』
「バカッ! 待て! やめろ! 面接はもういいから今すぐ逃げろぉぉぉっ!!」
俺の悲痛な叫びは、またしても数秒のラグによって遅れて届いた。
彼女はカメラ(スマートフォン)を胸元のホルダーに固定したまま、藪の奥へと猛ダッシュを開始してしまった。
ザザザザザッ! バキバキバキッ!
激しく揺れる画面。
荒々しい息遣い。
そして、何か巨大な黒い影が、画面の端を横切った——その瞬間。
ブツンッ。
『……通信が途絶しました。エラーコード404』
ジェミニ先生の冷酷なシステム音が、四畳半に虚しく響き渡った。
「…………」
俺は、真っ暗になったPCモニターを見つめたまま、完全にフリーズしていた。
『ルシフェル様』
結愛の声が、静寂を破る。
『ヒグマの索敵範囲に入ってから通信が途絶したとなると、彼女の生存確率は極めて低いと言わざるを得ません。我が社の面接で、早くも第一号の犠牲者が出てしまいましたね』
「冗談じゃない!! 警察だ! 早く警察と山岳救助隊に連絡しろ!!」
『落ち着いてください。彼女から送られてきた履歴書の住所は、現在地から数百キロ離れていますし、本名も偽名の可能性が高いです。捜索のしようがありません』
「そんな無茶苦茶な……。俺のせいだ……俺があんな狂った募集要項なんか出したから……っ」
俺は頭を抱え、畳の上に突っ伏した。
エウリアンに騙されて500万の借金を背負い、ヒモ社長に成り下がり、起死回生を狙って企画した『やまむすめ』プロジェクト。
それがまさか、面接中に志願者がヒグマに特攻して通信途絶するという、最悪のサスペンス映画に発展するとは誰が想像しただろうか。
『……社長ぉ、ドンマイっす。気を取り直して、次の候補者行きますかぁ……?』
海外スタッフのヨモの気だるげで無神経な言葉が、俺の折れた心をさらに粉々に砕いていく。
「もう嫌だ……。誰か、普通の女の子を連れてきてくれぇぇぇぇっ!!」
北海道のボロアパートに、限界を迎えた40歳スーパーボトム社長の絶望の叫びが木霊した。
しかし、この魔境と化した面接サバイバルは、まだ始まったばかりであった。
コメント
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わあ、またとんでもない候補者が来ましたね…! 標高1500mの獣道を登りながら面接受けて、しかもヒグマに特攻して通信途絶するって、完全にホラー映画じゃないですか(笑)。でも、そんな狂気の展開を真面目にやっちゃうのがこの作品の魅力ですよね。社長の「バカ!やめろ!」の絶叫がめっちゃツボでした。次回、野生児は無事なのか、そして次の候補者はどんな化け物が出てくるのか、気になって仕方ないです!