テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
🐸『カエルが運ぶ恋』
第九話「届け、心の声」
――金曜の夜。
りなは残業帰り、駅のホームでふと空を見上げていた。
晴れた星空が広がる中、キューがぽつりとつぶやいた。
「そろそろ、踏み出してみるか」
「……え?」
「りな、言葉にしなくても想いは届く。けど、伝える勇気も、大事だ」
キューの声に、りなは少しだけうなずく。
彼女の中で、静かに“決意”が育ちはじめていた。
一方、小郷健斗は、チーム遠征でビジター球場にいた。
スタメン発表――今日も3番・センター。
応援席には、遠征にもかかわらず駆けつけたファンの声が響いている。
「栄光つかむために…!」
だがその日、小郷のバットは沈黙を続けていた。
二打席連続の凡退。チームも劣勢。
(焦るな、焦るな……)
小郷は自分に言い聞かせたが、どこか心がついてこなかった。
ベンチに戻った彼に、打撃コーチが声をかける。
「お前、何か引っかかってないか?」
小郷はふと、思い出す。
りなのことを、気にかけながらも――
ちゃんと向き合えていないことに。
「……試合が終わったら、連絡しよう。ちゃんと」
心の奥が、少し軽くなった気がした。
試合後。ホテルに戻った小郷のスマホに、
りなからのLINEが届いていた。
「今日は試合観に行けなかったけど、応援してました。
無理しないで、自分のペースで。ちゃんと、見てるから。」
小郷はしばらくその文章を眺めて、静かに笑った。
そして返信した。
「ありがとう。もうちょっと、ちゃんと向き合うよ。
試合、観に来てくれたら嬉しい。今度……話、しよう」
スマホを置いたその瞬間、
ハチが小さく「わん」と鳴いた。
心の声は、ちゃんと届いた。
次は、言葉にして伝えよう――。