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🐸『カエルが運ぶ恋』
第十話「想いを伝える日」
週末のホームゲーム。
りなはスタンドにいた。球団グッズを少しだけ身につけて、小さく深呼吸する。
(今日は……ちゃんと、気持ちを伝えよう)
カエルのキューは、ポシェットの中でじっと見守っていた。
「いいぞ、りな。今日はちゃんと、目を見て話すんだ」
試合は白熱。
小郷は2打席目、レフト前ヒットを放ち、観客の歓声に小さく帽子を掲げる。
そのスタンドに、彼女がいる。
それが、何よりのエネルギーだった。
(りな、来てくれてる)
試合後。球場の外で待っていたりなに、
ユニフォームのままの小郷が静かに歩み寄る。
「待たせた?」
「ううん。私が……ちゃんと、会いに来たかっただけだから」
ふたりの間に、一瞬の静けさ。
りなが、そっと視線を上げて言った。
「小郷さん、スランプの時……連絡できなかったけど、心配してた。
でも信じてた。今も、ちゃんと、応援してる」
小郷はゆっくりとうなずいた。
「俺も。りなが支えてくれてるって、感じてた。
……ありがとう。あのとき、LINEくれて嬉しかった」
互いの言葉が、少しずつ空白を埋めていく。
もう、“心のすれ違い”はどこにもなかった。
帰り道。りなの肩にそっと、小郷の上着がかけられた。
「風、冷たいな。風邪ひくなよ」
「……ありがとう」
キューは、ポシェットの中で小さく拍手していた。
その夜、ハチも小郷の布団の中で静かに笑っていた。
「恋って、悪くないな」
犬とカエルが、それぞれの場所でつぶやいた夜だった。