テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
あまおう
73
ホウ酸
1,125
#らっだぁ
れーん🌸
3,770
春になった。
冬の名残はまだ残っている。
けれど、窓を開ければ少しだけ暖かい風が入ってくる。
らっだぁは窓辺に座っていた。
頬杖をつきながら外を眺めている。
暇そうだった。
とても。
ものすごく。
誰が見ても暇そうだった。
「そんな暇なん?」
仕事前の金色が声を掛ける。
らっだぁが振り返る。
こくり。
素直に頷いた。
「即答やん」
紙が差し出される。
『暇』
「知っとる」
『暇』
「二回言うな」
『暇』
「三回言うな」
少しだけ口元が緩む。
笑っている。
最近は分かるようになってきた。
声が無くても。
表情が無くても。
何を考えているか少しずつ。
「しゃあないなぁ」
そう言って、机の上から鍵を取った。
らっだぁが首を傾げる。
「買い物行くで」
数秒間、動きが停止する。
次の瞬間。
らっだぁが立ち上がった。
早かった。
びっくりするくらい。
「そんな嬉しいんか」
こくこくこく。
ものすごい勢いで頷く。
金色の彼は吹き出した。
「ほら、行くで」
✦
市場は騒がしかった。
人も多い。
獣人。
天使。
エルフ。
鬼。
様々な種族が行き交っている。
らっだぁは落ち着きもなく辺りを見回していた。
完全に観光客だ。
「迷子になるなよ」
肩を掴む。
らっだぁは不服そうだった。
五分後。
迷子になった。
「おい」
発見した。
果物屋の前だった。
「何しとんねん」
らっだぁが何かを指差す。
赤い果実。
見たこともない果物。
「ああ」
納得する。
今までまともな生活をしてこなかったのだろう。
知らないものばかりなのだ。
「食うか?」
目が輝いた。
「分かりやす」
結局、それを買って帰ることにした。
おそるおそる、一口食べる。
「どうや?」
もぐもぐ。
もぐもぐもぐ。
らっだぁの口が動く。
『うまい』
紙を見せられる。
「それ書きながら食うのやめろや」
✦
帰宅後。
らっだぁは何やら真剣だった。
向かっている机には、紙が大量に散らばっている。
「何しとん」
金色に気付いた瞬間、慌てて隠す。
「なんでや」
さらに隠した。
「余計気になるやろ」
むすっとした顔。
見せる気はないらしい。
結局その日は分からなかった。
翌日。
仕事から帰って、玄関を開ける。
良い匂いがした。
金色の彼はぴたりと止まる。
嫌な予感がした。
とても。
「らっだぁ」
返事はない。
リビングへ向かう。
そこには。
胸を張るらっだぁと。
一皿の料理があった。
「…………」
沈黙。
らっだぁが紙を出す。
『成功』
「ほんまか?」
『成功』
「前もそう言うてなかった?」
『今回は成功』
自信満々だった。
疑わしい。
非常に。
だが。
見た目は普通だった。
少なくとも黒焦げではない。
恐る恐る食べる。
ゆっくりと咀嚼する。
⋯らっだぁが見ている。
めちゃくちゃ見ている。
「……」
さらに見ている。
「……美味い」
一瞬。
本当に一瞬。
らっだぁの顔が輝いた。
花が咲いたみたいだった。
「おぉ、」
思わず声が出る。
そんな顔もできるのか。
知らなかった。
『ほんと?』
「ほんま」
『まずくない?』
「美味い言うとるやろ」
『焦げてない?』
「前回基準にするな」
笑う。
らっだぁも笑う。
そして。
気付く。
ああ。
この顔が見たかったんか。
と。
✦
それからだった。
紙の量が増えたのは。
『おそい』
机に置かれている言葉たち。
「仕事や」
返事を呟く。
翌日。
『言い訳』
増えている。
「誰が教えたそんな言葉」
翌日。
『おかえり』
「ただいま」
『今日は?』
「疲れた」
『ざこ』
「お前なぁ」
紙を丸めて投げる。
避けられる。
むかつく。
らっだぁは楽しそうだった。
✦
ある日。
仕事で嫌なことがあった。
珍しく酷かった。
帰りたくなかった。
誰にも会いたくなかった。
そんな日だった。
だから。
玄関を開ける。
リビングに行く。
らっだぁがいる。
それだけで。
少しだけ安心した。
らっだぁは文字を書く。
『どうしたの』
「別に」
『うそ』
「なんでや」
『顔』
短い言葉。
それだけ。
それだけなのに。
不思議と。
少しだけ。
話したくなった。
「仕事でな」
ぽつり。
言葉が漏れる。
「めんどいことあってん」
らっだぁは黙って聞く。
「上司がな」
耳を傾ける。
「ほんま嫌いやねん」
聞く。
何も言わない。
でも聞く。
ただそれだけ。
それだけなのに。
心が軽くなっていく。
全部話し終えた頃。
らっだぁは紙を差し出した。
『おつかれさま』
たった六文字。
それだけなのに。
何故だろう。
泣きそうになるくらい、
嬉しかった。
その夜。
眠ったらっだぁの隣で、金色の彼は小さく笑った。
「お前がおらんかったら」
そこまで言って。
言葉を止める。
続きは口にしなかった。
言いたくなかった。
認めたくなかった。
だって。
認めてしまったら。
もう。
渡せなくなってしまうから。
窓の外では春の風が吹いていた。
部屋の中には静かな寝息が響いている。
らっだぁは眠っていた。
幸せそうに。
だから、金色の彼は知らない。
らっだぁが。
毛布の中で。
小さく笑っていたことを。
そして。
誰にも聞こえない声で。
「……おやすみ」
と呟いたことを。
NEXT=♡1000
コメント
7件
無口ならっだぁすっごい可愛い… きょーさん保護者すぎる…いやある意味保護者か(?)
ああああらっだぁの行動全てが可愛い!!! きょーさんもやっと本音出したか!!それでいいんだ! らっだぁはなぜ喋らないんだ???謎すぎる 昔喋らないように言われたからとか? 続き楽しみに待ってます✨