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『首すじに落ちる熱 ― 朝焼けのあと』
眩しい光が、まぶたの裏に滲む。
意識がぼんやりと浮上していくなかで、まず最初に感じたのは、身体の重さと――隣にある温もりだった。
「……え……?」
微かに動こうとすると、シーツが肌に絡みつく感覚。
首元には、うっすらとした鈍い痛みと、ヒリつく熱。
そして、背中に触れているぬくもりが、確かに“人”のそれであることに、ハッとする。
「……元貴、くん……?」
声にならない声が喉で止まる。
ふと、隣を見る。
大森元貴は、静かに眠っていた。柔らかく乱れた髪、長い睫毛、そして――うっすらと、あなたの腰に回された腕。
それを見た瞬間、昨夜の出来事が、フラッシュバックのように押し寄せた。
彼の熱、声、触れられた感覚。
抗ったはずなのに、どこかで流されて――
いや、“流された”なんて、都合のいい言い訳かもしれない。
「……私、なにして……」
起き上がりたくても、身体がうまく動かない。
羞恥と、後悔と、少しの怖さが胸を締めつける。
そのとき、背後で微かに動く気配。
「……起きた?」
低く、掠れた声。昨夜の彼とは打って変わって、どこか不安げで、優しい響きだった。
「……うん」
あなたは、シーツを胸元まで引き上げながら、小さくうなずく。
「……ごめん、昨日。俺……やりすぎたよね」
「……」
「止まんなくてさ。ほんと、バカみたいだよな。……嫌だったよね?」
彼の声が、自嘲気味に震える。
思わず顔を上げると、彼は目を伏せて、あなたを見ようとしなかった。
いつものような余裕も、茶化しも、ない。
「……嫌、じゃ……なかったよ」
思ってもいなかった言葉が、口から零れた。
「でも、ちょっと……怖かった」
「……そっか」
元貴は静かにうなずく。
「ごめん。……ちゃんと、聞くべきだった」
そのまま、彼はゆっくりと腕をあなたから離した。
まるで、「ここで終わりにしよう」と言っているような、そんな距離の取り方だった。
胸が、ぎゅっと締めつけられる。
「……後悔、してる?」
あなたがぽつりと問うと、元貴は驚いたようにあなたを見つめ――小さく笑った。
「……してない。ひとつも」
「ただ……大事にしたいって思ってたから。こういうの、もっとちゃんとした形で……って思ってた」
その言葉に、少しだけ心が揺れる。
――じゃあ、私たちはこれから、どうなるの?
それはまだ、答えの出ないまま。
けれど、朝焼けの差し込むスタジオの中で、
ふたりの距離はまた、少しだけ変わっていた。