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テレポート魔法が発動出来るアイテムを使って地下都市レイウルムへ戻って来た――といっても、盗賊の頭であるジオラスを送り届けるだけで長居するわけじゃない。
「なっ! 本当だったろ? アック」
飛んで来た場所は遺跡側だった。遺跡へ進む前にすでに敵の多くを掃討したこともあって、辺りは静まり返っている。
「確かにここはレイウルムのようですが……」
「何だ、まだ疑ってんのか?」
「そうじゃなくて、静かすぎませんか? もし敵が残っていたら……」
レイウルムから離れて結構な時間が経つ。着いた場所からいくら離れた場所とはいえ、敵が残っていないとも限らない。
「弟が無傷なら町の連中もきっと無事だろう。それに、お前にはこれ以上手間をかけさせるわけにはいかねえ」
「えっ?」
「あんだけしがみついてきた彼女、それも二人も……。彼女たちの姿を見れば、お前が必要とされてることくらいさすがに分かる。あの連中もうろうろしてんだろうし、早く戻ってやりな! アック」
駄々をこねまくり、泣きながら必死にしがみついてきたルティとシーニャを説得して来た。特に、ルティに関しては力の加減が出来ないほどの必死さがあった。
ジオラスはルティのことを知っているだけに、あの光景だけで悟ったに違いない。
「……そうします。ええと、この腕輪の効果って――」
「何とも言えねえが、魔力が尽きない限り使えると思うぜ。お前にぴったりだな!」
「なるほど。それじゃ、ジオラス。色々片付いたらまた……」
「おう! またな、アック!」
その場で”アンブラダンジョン”と唱えたおれは、元いた場所に戻ることが出来た――はずだったが、どう見回しても上流の小屋がある場所じゃない。
幸いにして敵どころか魔物の姿も無い水路のどこかに飛んで来たと思われるので、もう一度同じ言葉を唱えることに。念の為、今度は”上流の小屋”を指名し、何とか見覚えのある場所に着く。
しかし、似た小屋はどこにでもあるだけにここがその場所とは限らない。何より、待たせていたはずの二人の姿がどこにもないのが気になる。
違う場所なのかと思っていたが、小屋の隅に隠れていたのかシーニャの声が聞こえてくる。
「アック、アック~!! 待ちくたびれたのだ~ウニャッ!」
小屋の外でシーニャがぴょんぴょんと飛び跳ねながら声を張り上げている。ルティの姿が見えないが、とにかく元の場所に戻って来られたようだ。
「シーニャ! 無事に待っていてくれたのか」
「ウニャ? 危ないことなんて何も無かったのだ。アックもそうなのだ?」
「おれはもちろん平気だぞ。ところで、ルティは?」
「ドワーフなら、そこの小屋に入っているのだ。だから一緒になんて入りたくないのだ! ウニャッ」
やはり仲が悪いのは相変わらずか。外で隠れて待っているのもシーニャらしいが。
「何も起きなかったようで何よりだぞ」
「アック、アック! ドワーフと合流する前にお願いがあるのだ」
そう言うと、シーニャがおれの腰に体当たりしてきた。ルティの突進と違ってモフっとした感触がある。
「うん?」
「シーニャ、着ているものを新しくしたいのだ! 何度も水に濡れてもう嫌なのだ。だから水に濡れないものを着たいのだ。ウニャ」
シーニャが必死になって訴えてくるなんて珍しい。そういえば、ルティも含めてシーニャは水に濡れるのを嫌っていたんだよな。
全身を振り動かして水滴を全て弾かせているとはいえ、耐水性に優れた装備じゃないのは確かだ。シーニャがおねだりをしてくるのも滅多に無いし、久々にガチャで出しておくか。
隠すわけじゃないがルティが小屋の中にいるのも都合がいいし、今のうちにやっておくとする。
「――よし、シーニャ。ガチャで装備を一新させよう!」
「期待してるのだ、ウニャッ!」