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汝に我が尾と獣耳を捧げよう──。

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汝に我が尾と獣耳を捧げよう──。

44 - 最終話 汝に我が尾と獣耳を捧げよう──。

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2025年02月12日

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ジークフリートが奇跡の力を行使しようと神獣ヴェルズの魔石ペンダントに魔力を注いだ瞬間、私達は全員灰色の世界に佇んでいた。


「ここは何処だ⁉」


ジークフリートの狼狽した叫びが響き渡る。


どうやら彼は初めてこの場所に来たらしい。


それにして、今回は誰の記憶の世界に迷い込んだのだろうか?


今までのパターンだと、今、この場所にいないひとの記憶世界のはずだけれども、ここには私もニーノもルークもいる。魂だけの存在であるジークフリートも含めると、あの場所には他に誰もいなかったはずだ。


その時、私はハッとなる。そう言えばあの場所にはまだあの人達がいたことを想い出したからだ。


すると、いつものように目の前に窓の様な四角い枠が現れると、そこに黒髪の女性の姿が映し出された。


それを見てジークフリートは狼狽する。


「リン……何故ここにリンの姿が映し出されているのだ⁉」


私は何も答えず、そのまま見るように促す。


そこに映し出されたのは地下牢に幽閉されている聖女リンの姿だった。彼女はボロを纏い、顔には痛々しい青痣が幾つも出来ている。これは恐らく処刑される直前の記憶なのだろう。


ジークフリートは怒りに顔を引きつらせつつも、食い入るように記憶を見続けた。


「ごめんね、私の子供達。私には貴女達を救うことが出来ないの。でも、これさえあればまだ希望はあるわ」


そう言って聖女リンは神獣ヴェルズの魔石ペンダントを取り出すと、両手を合わせ祈るように天を仰いだ。


「神獣ヴェルズの魔石ペンダントよ、奇跡の力を行使し、私のお腹にいる赤ちゃんを助けて。もうこの世界では二人を産んでも幸せにすることは叶わない。ならば、せめて平和な時代に二人の魂を送り届けて欲しいの」


次の瞬間、神獣ヴェルズの魔石ペンダントから柑子色の光が溢れ出し、聖女リンのお腹に光の粒子が覆い包む。


「きっとお腹の赤ちゃんは双子の姉妹よ。名前はもう決めてあるの。お姉ちゃんはミア。妹はニーノ。フフ、勝手に決めてしまったらジークフリート様に叱られちゃうかもだけれども、仕方がないわよね? 二人とも、未来の世界で二人仲良く力を合わせて生きるのですよ」


聖女リンの瞳から大筋の涙が零れ落ちるのと、光が弾けるのは同時だった。


その瞬間、聖女リンの髪の色は白銀から黒に変色した。


突然、ぐにゃりと目の前の視界が歪むと、私達は元の世界に戻っていた。


ジークフリートは茫然とした表情で私達を凝視していた。もう彼から禍々しい邪気は感じられなかった。


「そうか……そういうことだったのか。リン、お前は自分の為にではなく我が子達の為に奇跡の力を使ったのだな」


ジークフリートは天を仰ぎながら呟くと、私達に目を向けた。


彼は何かを呟こうとするが、寂し気に笑って頭を振った。


「いや、オレにそんな資格はないか。済まなかったな、ミア、ニーノ」


そう呟くと、ジークフリートはパチンと指を鳴らした。


すると、ルークの身体が崩れ落ち、地面に倒れそうになる。


「ルーク⁉」


私がルークの身体を抱き止めると、ルークは私を見てフッと笑った。


「ただいま、ミア」


「ルークなの⁉ 良かった、戻ってきたのね⁉」


見ると、ジークフリートの亡霊が佇んでいるのが見えた。その身体が徐々に分解され、粒子になっていた。


「どうやらお迎えの時が来たみたいだな。闇に堕ちたオレが行きつく先ははタルタロス地獄だろうから、もう二度とリンには会えまい。だが、それがささやかながら苦しめた者達への贖罪なるだろう」



「そんなことはないわよ?」


ニーノがジークフリートの前に歩み寄る姿が見えた。


「貴方の奥さんと、嫌かもしれないけれども、奥さんのお姉さんはここにいるよ?」


ニーノはそう言って二人の亡骸をジークフリートに差し出す。


次の瞬間、二人の亡骸は光の粒子となって消滅すると、光り輝く霊体に姿を変えた。


そこに現れたのは聖女のドレスを身に纏った伝説の双子聖女、リンとランの二人だった。


リンとジークフリートは何も語らず抱き合った。その表情が幸せに満ちて行くのが見えた。


聖女ランはニーノに振り向くと、一言呟く。


「幸せになりなさい、ニーノ。私の可愛い姪っ子ちゃん」


次の瞬間光が弾けた。


もう三人の姿はなかった。


「ミアお姉さま、見て! 瘴気の沼地が美しい泉になっているわ⁉」


もうそこに瘴気が噴き出る沼地は存在していなかった。あるのは清らかな水が流れる泉の姿だった。


「これで本当に終わったのね」


私が一息つこうとした瞬間、突然、ルークが私の腰に手を回し引き寄せてくる。


「どうしたの、ルーク?」


「いや、せっかくだからニーノにオレ達の見届け人になってもらおうと思ってな」


「見届け人? それ、どういうこと?」


すると、ルークは私から離れると、片膝をつき私の左手を取った。


ルークは真剣な眼差しで私を見つめて来る。


「ミア、改めて言わせてもらう。汝に我が尾と獣耳を捧げる。オレと結婚してくれるか?」


潤いを帯びた真紅の双眸が私の胸を貫く。


答えなんてもうとっくに出ている。一度言ったけれども、こんな幸せなことは何度だって言ってもいいよね?


「はい、喜んでお受けいたします。ルークの雄々しい獣耳も、モコモコの尻尾も、心も体も全部私のものなんだからね⁉」


そして私達は見つめ合う。


唇と唇が触れ合い、私達は幸せを噛みしめた。


隣ではわはわと動揺するニーノが気になったが、今はルークの唇の感触を堪能する私であった。

汝に我が尾と獣耳を捧げよう──。

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