「フ、フニャ……!」
何やらムニムニしているものに触れている。その感触はあまり経験が無いが、スキュラのような軟体生物に触れた時のように柔らかい。
「フニャゥゥ……い、いい加減にして欲しいのだ!!」
つぅっ!?
まさか引っかかれた?
これはもしかして……。
「早く目を開けるのだ! アック、シーニャをどうするつもりがあるのだ?」
急いで目を覚ますと、ベッドに寝ていたおれの真横にシーニャがいた。しかも鋭い爪を出して臨戦態勢を取っている。
何でおれの横にシーニャがいるんだ?
「アック、ドワーフに吹き飛ばされたのだ。目覚めないから船室で眠らせていたのだ。シーニャ、アックのそばにいるだけで回復! 回復させていたのだ」
あぁ、やっぱりルティにやられていたか。船室ってことは王国行きの船に乗っているってことだよな。
「ルティはどこに?」
「ドワーフなら外で釣りをしているのだ」
「釣り……?」
「魚で何か作るつもりがあるみたいなのだ」
ルティの新メニューというやつか。
それにしてもあの感触はどう考えても――
「――シーニャ、ごめんな!」
「アックも野生の獣! だから気にしない。シーニャ、むずがゆい。耳と頭もむずがゆい。尻尾と胸、寝ぼけて掴まれてもシーニャ、困る」
野生でも無いし獣でも無いが。
胸やら尻尾やらを触りまくっていたようだし素直に頷いておこう。シーニャにとって経験したことのない触れ方をされたよな。耳も含めて触れられることを好意的に取るはずも無いし、苦手なのは間違いない。
「こういうことはもうしないから、機嫌を直してもら――」
「――違うのだ!」
「う?」
「寝ぼけないで起きた状態、シーニャ、触れて欲しい。アック、優しい。アック、嬉しい」
「……」
思っていたより怒って無いのか。
いや、むしろ嬉しそうにしている?
「触れたいときはいつでもシーニャ、言うことを聞く。急にするのはやめて欲しいのだ」
「き、気を付けるよ」
「ウニャ!」
結構前にも嫌がられたことがあるがそういうことだった。分かったからといって、むやみやたらに触ることはしないようにしなければいけないが。
とりあえず体を起こし腕を回してみると、
「おっ、ダメージは残っていないな。それもシーニャのおかげかな?」
「ウニャ。アックも耐える体になった。シーニャの回復、すぐにいらなくなったのだ」
「ルティの体当たりでまさかの衝撃耐性が……」
いいのか悪いのか何とも言えないがとりあえず回復したので、船室から出ることにする。
「回復ありがとうな。おれは外に出るけど、シーニャは?」
「……海、グラグラ。シーニャ、ここでいいのだ」
シーニャは船酔いを経験して苦手になったようだ。彼女を船室に残し、おれだけ船室の外に出た。
すると、
「あっ! アックさん! 具合はいかがですか? 意識が無いままお連れしてしまいまして、すみません!」
部屋を出てすぐリエンスから声がかかった。
「王国行きの船……で、間違いないんだよな?」
「そのとおりです。王国への招待とラクルからの航路開設だけで心苦しいのですが、王国へ着けばそこから他国に行くことも出来ますので、どうかご勘弁ください」
護衛依頼と王女捜索の報酬が航路開設か。
「このことは王国には伝わっているのか?」
「いえ……。ですが、王女がお戻りなるというそれだけで十分ですから」
「数年以上探し回っていたっていうのは本当か?」
「はい。退屈を好まない王女でしたので……」
「なるほど」
かつて王女だったエドラについてはよく分からない。勇者たちと何らかの形で接触した上で行方不明になっていただろうし、以前の状況まではさっぱりだからだ。
「そういうことですので、王国に着くまでに日数がかかります。具合が悪ければいつでもおっしゃってください。僕はそろそろ王女の元へ戻ります」
「分かった。よろしく頼む」
肝心のシーフェル王女の姿を探すにしても、見習い騎士があれだけ張り付いているとなれば簡単に話せそうにないな。ここはひとまずルティを探すことにする。