テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
3,402
カジノの空気は、いつだって少しだけ狂っている。
音も、光も、人の視線も。
全部が“もう一歩踏み外せば終わる場所”にちょうどいい温度で揃っている。
「――で、ビビってんのか?」
低く笑ったのはチャンスだった。
黒のスーツ、ラフに緩めたネクタイ。指先でコインを弾きながら、わざとらしくエリオットを見る。
「別に。……ただ、こういうの慣れてないだけ」
エリオットはグラスを持ったまま、視線だけ逸らす。
シャンデリアの光が軽く結んだ金髪に反射して、やけに目立つ。
「嘘つけ。心臓うるせぇの、こっちまで聞こえてんぞ」
「は?聞こえるわけ――」
「賭けるか?」
遮るように、コインが空中に弾かれた。
くるり、と回る銀色。
落ちてくるそれを、チャンスは手の甲で受け止める。
「表なら、お前が今日は全部決める」
「裏なら――」
一拍。
「俺の言う通りに動け」
エリオットは一瞬だけ黙った。
その沈黙が、妙に長く感じる。
「……くだらない」
そう言いながらも、視線はコインから外れない。
「で?乗るのかよ」
チャンスが笑う。
逃げ場は、もう最初から用意されていないみたいに。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!