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とら
78
5,960
さき
411
#短編集
有栖
167
ガチャッ
🤍「……」
💛「……」
不意に扉が開き身体がビクッとなる。
即座に柔太朗が俺を隠すようにして庇った。
胸に顔を埋めた俺からは扉を開けたのが誰なのかわからない。
🩷「……もう時間」
その声は勇斗だった。
💛「…っ!!」
🤍「……」
ガバッと柔太朗を突き放した俺は今日初めて勇斗と目が合う。
でもすぐに逸らされ目線は柔太朗へと移された。
🩷「……」
🤍「……ハァイ。」
💛「、っ」
冷たい目で俺たちを見つめた勇斗はそれしか言葉を発さずただ柔太朗を睨むように見つめている。
勇斗のそんな様子に柔太朗はふわりと気の抜けたような返事をして俺に目をやった。
💛「…っ」
🤍「……」
少し傷付いたような、覚悟の決まったような笑みを見せた柔太朗がもう先に歩きはじめた勇斗のあとに続いた。
💛「……」
…俺はどうすればいいんだろう。
思わぬ岐路に立たされた自分の本心を問う。
遠くなっていく二人の背中を見つめる。
…二つの感情が入り交じる自分自身を呪った。
―――
撮影終わりの楽屋での勇斗の様子が朝とは全然ちがった。
ただ壁際の椅子に足を組んでぼーっと座り空間を見つめている、そんな様子で。
💛「…」
ずっと勇斗を見つめる俺の横に柔太朗が居て、二人とも何も会話することはなく、周りの喧騒が遠くに聞こえた。
おもむろにスマホを取りだした勇斗が何かをタップし出す。その直後俺のスマホが震えた。
目を落とし確認するとそこには勇斗から短いメッセージが来ていた。
『二人で話そ』
なんだかそれだけで涙が込み上がった。
勇斗がなにを言おうとしているかはわからない。
もしかしたらこのまま俺を切り捨てるつもりかもしれない。
それでも、あんな終わり方じゃなければなんでも良かった。勇斗が俺を見てくれている。
考えてくれてる。それだけで安堵してしまう。
『わかった』
返信をする俺の手に柔太朗の手が伸びてきて重なる。
振り向くともうすっかり信頼の置ける相手となった柔太朗の顔があった。
🤍「ほんとに行くの?」
💛「……うん、行く」
🤍「……待ってるから」
💛「……」
その言葉の意味を理解すると同時に先日の柔太朗と迎えた朝を思い出した。
触れ合う素肌が心地よくて、二人で柔らかい布団に包まれてほっと安心できた朝。
幼い寝顔も、俺に向けられる柔らかな笑顔も。
勇斗に視線を戻すとただ無表情でスマホを触っていて、その心の内は読めなかった。
―――
勇斗のマンションのエントランスを通り部屋のインターホンを鳴らすとすぐに扉が開かれた。
ガチャッ
🩷「…入りな」
💛「……」
少し憔悴した様子の顔に胸が締め付けられるのを感じた。
さっきまでの普段通り振舞っていた勇斗との落差に驚く。
🩷「……」
💛「……」
無言で部屋に入る自分たちの僅かな足音しか聞こえない。
シーンとした空間が逆に耳に馴染まず居心地が悪かった。
🩷「…まあ座んなよ」
💛「……うん」
冷蔵庫からペットボトルのお茶を持ってきた勇斗がテーブルに2本置きながらゆっくりと前に座った。
🩷「……」
💛「……」
肘をつきこちらを眺める勇斗からはなんの刺々しさも怒りも感じなかった。
呆れたように口角を上げこちらを見つめる勇斗が泣きそうに見えるのは気のせいだろうか?
🩷「…そんな怯えないでよ」
💛「…怯えてないよ」
🩷「俺さ、考えたんだけど」
💛「…うん」
ドクッと心臓が鳴る。
🩷「……やっぱ許せない」
💛「…っ」
🩷「…でもこのまま柔に仁ちゃんあげるわけにはいかない」
俺はただ勇斗を見つめて言葉を聞いていた。
🩷「俺いやだよ」
💛「…」
🩷「仁ちゃん離したくないよ」
💛「…っ」
姿勢も表情も変えずにそう言った勇斗の目がやっぱり泣きそうで。
🩷「昨日はさ、」
💛「…うん」
🩷「俺めっちゃムカついて仁ちゃんどうにかしちゃいそうだったから帰ってもらったの」
💛「…」
🩷「全然予想してなかったし」
💛「…」
🩷「…俺のだって…思ってたから」
勇斗の目が充血したように赤くなる。
ハア、と息をついた勇斗が俺を見てまた話し出す。
🩷「…奪われるなんて考えたこともなかった」
💛「…っごめん」
🩷「…うん。でもダメなんだよね」
💛「…な、にが?」
自分もいつの間にか泣いていた。
🩷「俺仁ちゃんめっちゃ好きだから、浮気されても、ムカついても」
💛「…」
🩷「絶対に離したくない」
💛「…っ」
🩷「…だから教えて欲しい」
俺に向き直った勇斗がほんのり赤い真っ直ぐな目で見つめてくる。
🩷「…仁人は柔太朗が好きなの?」
💛「……」
🩷「好きになったの?」
💛「…」
🩷「……だから身体許したの?」
沈黙が痛い。
最後の勇斗の言葉がオレの頭の中で何度も反芻される。
💛「…………っ」
🩷「もう俺怒る元気ないから…だから…ちゃんと教えて?」
たった一日でこんなに憔悴しきった勇斗の姿に胸がぎゅうっと締め付けられ苦しくなった。
ポツリポツリと、言葉を紡ぐ。
💛「……昨日…柔太朗とご飯行ったんだ」
🩷「…うん」
💛「その時、、、俺と勇斗のこと…知ってるって、言われて」
🩷「……」
💛「気付いてたって言われてっ」
ポロポロ涙がこぼれ出す。泣いちゃいけない。
泣いたらまるで、アイツが悪者みたいじゃないか…
💛「…家、行ったんだ」
🩷「……うん」
核心に近づきそうな予感に声が震えた。
言わなければ…
💛「それで…最初は、、無理やり」
🩷「っ…」
勇斗の顔が強張る。怒りを滲ませたその顔に焦りが止まらなくなる。
💛「でも…そのあと…柔太朗が、、俺を、好きだったって」
🩷「……」
💛「ずっと好きだったって、言って…」
🩷「……それで?」
勇斗が問いかける。
悲しげな瞳が揺れている。
💛「……俺、わかんなくて」
🩷「……」
💛「俺が好きなのは…勇斗だから」
🩷「…」
💛「でも…」
言わないと。
💛「……柔太朗のこと、、嫌いになれない」
🩷「……」
💛「あいつのした事、、全然分からないわけじゃなくてっ」
🩷「……なんで?」
💛「……柔がずっと優しかったから」
🩷「っ…」
💛「俺だけに優しかったんだって、気が付いた」
🩷「……」
💛「思い返したら、、そうで」
🩷「……」
💛「そしたらもう拒めなかった…」
これが素直な気持ちだった。
🩷「…じゃあ」
💛「…」
🩷「俺と柔太朗、どっちの方が好き?」
💛「…!」
🩷「ほんとの事言って」
💛「……」
柔の事は、、
💛「…勇斗だよ」
🩷「…本当に?」
💛「俺は勇斗が好きだよ」
🩷「柔太朗のことは?」
💛「…っ」
🩷「そこは黙るんだね」
💛「…分からない」
🩷「…」
💛「分かんないんだ、、俺」
――――
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