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しんみりし掛けた空気を切り裂いたのはジグエラの凛とした声であった。
『一概に御伽噺(おとぎばなし)と断じる事は出来ないわよ、古代に優れた人間文明が存在していたと仮定される遺跡や遺構は現代でも発見され続けているんだからね。 口伝(くでん)に曰く、人々は地を穿(うが)ってこの星の奥底を目指し、あまつさえ天空をも自由に駆けた、そう伝えられているのよ? 正体不明の聖遺物、アーティファクトであるそのナイフ、『シンセイギン』も又、古代の人間達が我々に残してくれた我々には知りえない知性による超科学的な物質かも知れないわよ、そんな風に説く科学者(竜)だっているんですからね! 若(も)しかしたら本当に有った世界かもしれないじゃないのよ!』
どうやら御伽噺を少し信じている風味のジグエラにガイランゲルはやれやれと言った風情を前面に押し出しながら答える。
『いやいやいや流石に夢見がちだろうジグエラぁ! そんなに人間達が優れた存在だったとしたらさ、何で今こんな世界になっているんだよぉ? おかしいだろう? まさかお前ってばあの伝説まで信じちゃってるとか言う訳じゃあないだろうな? ふうぅ~、現実を見ろよ! な?』
ムキになり掛けていた表情を少しだけ緩めたジグエラはガイランゲルに答える。
『まさか、あんな荒唐無稽(こうとうむけい)な救世主伝説を信じている様な事は無いわよ…… 流石に現実感、無さ過ぎだしねぇ~、アタシが言っているのは過去に何が有ったかなんて事は、今を必死に生き抜く事に夢中なアタシ達が、余暇に想い馳せる位じゃ理解できないんじゃないかな? そう言う話よぉ~』
『ははは、だよな、はははは♪』
なるほど、深い所での意見に然程の差異は無いらしい二頭の竜はお互いに納得しているらしい。
まあ、御伽噺は御伽噺、本当かな? それとも妄想の賜物(たまもの)かな? どうだろうね? どっちが浪漫があるぅ? んな事言ったってぇ~、的な意見の相違、そんなレベルの言い争いだったようである。
会話が一段落、そんな感じになったというのに、我等がレイブが二頭の竜に対して言葉を続けてしまう。
「きゅ、救世主? あの伝説ぅ? 何なのぉっ! それ教えてよっ! あの伝説って一体何なのさぁ!」
既に旧知の相手っぽくなって来た、親戚の叔父さん属性丸出しのガイランゲルが長い首を折り曲げて小さなレイブの鼻先まで顔を近付けながら言う。
『さっきから言っているじゃないかレイブ、救世主とは『アクマ』、お前等、いいや君たち人間が言う所の神様達についての伝承なんだよ』
「えっ! 達? 神様っていっぱい居るの? そうなのぉ!」
この幾分脇にそれた質問に答えるのは赤竜ジグエラである。
『ええ、伝説では沢山居た、そう言われているわよ、専門で研究をしている科学者(竜)達の間では凡(およ)そ五十万の『アクマ』達がこの世界で活発な活動をしていたらしい、そんな風な意見が大勢を占めているわね』
「え? ええっ! ご、五十万? そ、そんなにぃ~!」