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第152話:畑にそびえ立つ黄金の馬車と、限界集落の宝物庫
我が家の絶対権力者である純白の神獣シロ様が、畑のど真ん中で盛大にうたた寝をかました翌朝。
十勝の限界集落は、いつも通りに清々しく、どこか冷涼な秋の朝を迎えていた。
古民家の台所では、完璧な火加減によって炊き上げられた玄米が、羽釜の中で静かにふっくらと蒸らしの時間を終えようとしている。
俺——アキヤは、温かいほうじ茶を一口啜り、今日も完璧な兵站(ロジスティクス)が維持されていることに満足していた。
だが、そんな平穏な朝のルーティンは、またしても激しい足音によって打ち破られることになる。
ガラララッ!!!!
「お、お兄さぁぁぁぁぁんっ!!! 起きてください! いえ、もう起きてますよね!? とにかく今すぐ畑に来てくださいぃぃぃっ!!!」
もはや毎度お馴染みとなった、前線基地のパニック伝令兵こと小春ちゃんが、玄関の引き戸を外れんばかりの勢いで開け放って飛び込んできた。
いつもの動きやすい農作業着の裾をパタパタとさせ、顔を真っ赤にして息を切らしている。
「落ち着け小春ちゃん。敵の装甲部隊による強襲か? それとも秋の霜による作物の全滅か?」
「どっちも違います! 畑が……昨日シロちゃんがお昼寝していたあの畑が、完全にファンタジーのダンジョンみたいになっちゃってるんです!」
「……ほう」
俺は手元のほうじ茶を置き、俺の肩の上で「ふぁあ」と優雅に欠伸をしているシロ様を見上げた。
彼女の神秘的な『オッドアイ』の瞳は、「何を騒いでいるのかしら」とでも言いたげに、極めてマイペースに輝いている。
俺はジンバルに固定したiPhone miniを手に取り、小春ちゃんに導かれるまま、村の共有広場の隣にある畑へと向かった。
防風林の隙間を抜け、視界が開けたその瞬間。
「……なるほど。これは確かに、事前の索敵データにはないイレギュラーだな」
俺の、どんな修羅場でも動じない元・社畜の鋼のポーカーフェイスが、微かにピクリと動いた。
そこは、昨日まで普通の、のどかな十勝の農地だった場所だ。
しかし今、畑の中央には、周囲の防草シートや畝を完全に押し潰し、文字通り『馬車サイズ』にまで巨大化した、直径五メートルはあろうかという超ド級のカボチャが鎮座していた。
しかも、そのカボチャは、朝陽を浴びて鏡面のように滑らかに光り輝き、内部から溢れ出るような濃厚な『黄金の光』を放っている。
シンデレラの童話に出てくるカボチャの馬車も、実物を見たら裸足で逃げ出すレベルの、圧倒的な質量と神々しさだった。
さらに異変はそれだけにとどまらない。
巨大カボチャの周囲の畝では、土の隙間から顔を覗かせているサツマイモたちが、まるで精密にカットされた最高級の『ルビー』のように、妖しくも美しい赤紫色の輝きを放ち、周囲の空気をプラチナ色の光で満たしていた。
畑全体が、完全にRPGの最深部にある『秘宝の宝物庫』と化していたのだ。
「おおお……なんという神々しさじゃ……っ!」
「神様……畑の守り神様が、本当に奇跡を起こしてくださった……っ!」
畑の周囲には、すでに連絡を受けた村長やおばあちゃん達が総出で集まっており、全員が地面に膝をつき、数珠を握りしめながら巨大な黄金カボチャに向かって涙を流して拝み倒していた。
村のお年寄りたちの信仰心が、この一晩でカンストしてしまっている。
俺が【日常チャンネル】のゲリラ生配信のボタンを押した瞬間、早朝にも関わらず、一千万人を超えるリスナーたちが地鳴りのような勢いでチャット欄に雪崩れ込んできた。
『おいおいおい!! サムネ詐欺だと思ったらガチじゃねえか!!!』
『カボチャのサイズがバグり散らかしてるwwww』
『馬車サイズ(物理)wwシンデレラもびっくりだわ!!』
『サツマイモがルビーみたいに発光してるんだが!? 農業チャンネル終わったなww』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$5,000MeTubeギフト)=”Oh my God! A real fairy tale in Japan! Akiya, that pumpkin is a masterpiece of nature! It’s so magical!“(なんてこと! 日本のリアルな御伽話ね! アキヤ、あのカボチャは大自然の最高傑作よ! 凄く魔法めいてる!)』
画面の向こうで世界中の人間がひっくり返り、極彩色のスパチャが秋の落ち葉のように画面を覆い尽くしていく。
そんな、村人が全員失神しかけて拝み倒し、世界中がファンタジーの奇跡に大号泣しているカオス空間のど真ん中で。
俺は一人、静かに近くの軽トラックの荷台に腰掛け、いつものタッパーを取り出した。
中に入っているのは、完璧な水加減で炊き上げられた『冷やし玄米』と、自家製の『大豆ミートとひじきの五目煮』である。
「……よし。前線農地における、農作物の想定外の肥大化(オーバーグロウ)を確認。これより指揮官は、突発的な事態に備えるための、定時カロリー補給を開始する」
俺は、黄金に輝くカボチャの光に照らされながら、一切の表情を崩すことなく、ストイックに大豆ミートを咀嚼し始めた。
「お、お兄さぁぁぁん!!! 目の前にシンデレラも腰を抜かす黄金の馬車カボチャがそびえ立って、世界中がひっくり返ってる歴史的な奇跡の瞬間に、なんで一人だけ秋の涼しい風を浴びながら真顔で『ひじき大豆ミート』をモグモグ食べられるんですか!!」
小春ちゃんがパニックを起こし、昨日収穫して軽トラに積んであった、これまたルビーのように怪しく発光する『特大のサツマイモ(長さ約四十センチ・鈍器仕様)』を両手で引き抜き、凄まじいジト目でツッコミを入れてくる。
だが、俺は玄米の咀嚼を止めない。
「小春ちゃん、取り乱すな。どれほど農作物が馬車サイズになろうとも、元・陸上自衛隊需品科たるもの、一日の始まりにおける完璧な栄養補給を怠ってはならない。いかなるオカルト現象の前でも己の兵站(ロジスティクス)を最優先する。これが需品科の鉄則だ」
俺は持参した水筒の熱いほうじ茶で喉を潤すと、一千万人を突破してシステムを破滅させかけているカメラの前にキリッとした真顔で立ち、いつもの『限界言い訳タイム』を発動した。
「世界中の皆さま。画面の向こうで、カボチャが魔法で巨大化し、神獣の奇跡が起きたと感動されているかもしれませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『カボチャが発光して馬車サイズになってるのに、まだ言い訳する気かこの男は!!!』
『主の限界言い訳タイム・黄金の馬車編ww』
『さあ、このシンデレラの世界をどうやって現実科学で論破するつもりだww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「これは魔法でも奇跡でもありません。十勝地方の非常に肥沃な土壌環境において、特定のカボチャの個体が、植物ホルモンである『ジベレリン』および『サイトカイニン』の突発的な過剰分泌(遺伝子バグ)を起こし、一晩で細胞分裂が異常活性化しただけの、純粋な生物学的現象です。黄金に光って見えるのも魔法の輝きではなく、カボチャの表皮に含まれる『β-カロテン』の結晶密度が極限まで高まったことにより、朝陽の特定の波長を効率的に屈折・全反射しているという、光学的な錯覚に過ぎません。周囲のサツマイモのルビーのような発光も、ただの地中のリン光成分が表皮に付着しただけですね」
「んなわけあるかあああ!!!」
バコォォォォォンッ!!!!
小春ちゃんが、持っていたルビー色に輝く特大サツマイモを全力で振りかぶり、俺の背中に向かってパーフェクトなクリーンアップ・サツマイモスマッシュを見舞った。
中身がギッシリ詰まった極上イモが肉体に直撃した、鈍くも破壊力抜群の爆音が、静かな限界集落に響き渡る。
「β-カロテンの屈折で、カボチャから神聖なオルゴールのBGMみたいな音が聞こえるわけないでしょうが!! 光学的錯覚じゃなくて、昨日シロちゃんがここで可愛くお昼寝してくれたから、その最強の豊穣バフがカボチャをお姫様の馬車に変えちゃったんですよ!! 自分の家の猫の規格外のチート能力を素直に認めなさいよ!!」
『小春ちゃんのサツマイモスマッシュ炸裂www(鈍器の輝き)』
『ジベレリンの過剰分泌(ただのファンタジー馬車)』
『β-カロテンの全反射(どう見ても純度百パーセントの黄金の輝き)』
『適応力バグおじさん、ついに童話の世界まで植物ホルモンと光学のせいにして言い張るww』
『言い訳の無理矢理さが、世界中の農学会からツッコミが入るレベルww』
俺の理不尽極まりない植物学的な限界言い訳と、小春ちゃんのキレキレのサツマイモツッコミに、畑で拝んでいたおばあちゃん達は「アッハッハ! アキヤ君の言い訳はいつもインテリじゃのう!」と大笑いし、一千万人を超える視聴者たちも、腹がよじれるほどの大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(ほんと、相変わらず屁理屈だけは馬車並みに立派な下僕ね)』
俺の膝の上で、シロ様が満足げに目を細め、ゴロゴロと喉を鳴らして十勝の秋風を浴びている。
キツネ兄弟も、巨大ヒグマも、黄金の光に包まれながら、嬉しそうに畑の周りで転げ回っていた。
「……まぁ、理由はどうあれ。これだけ規格外の質量であれば、村の冬の備蓄燃料ならぬ、食料問題(ロジスティクス)は永久に解決するな。歩留まりとしては最高だ」
俺は背中のサツマイモの鈍い痛みをさすりながら苦笑し、シロ様の純白の頭をそっと撫で、冷やし玄米を口へと運んだ。
激務に潰されて逃げ込んできた、この限界集落。
最初は一人で静かに暮らすつもりだったが、今では世界一尊いモフモフたちと、騒がしい女子高生、そして世界中から見守るリスナーたちに囲まれた、世界一バグった『絶対の聖域』になってしまった。
神獣の放つ豊穣の奇跡と、元需品科のブレない限界言い訳。
限界集落の黄金の秋は、さらなる規格外の大爆笑と温かい癒やしを巻き込みながら、地球上で最も贅沢な収穫祭へと、どこまでも力強く突き進んでいくのだった。
ゆうき あきや
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#心理描写重視
コメント
1件
わあっ…またシロ様のバグみたいなチート能力炸裂してる!!😂💕 黄金の馬車サイズカボチャもルビーみたいなサツマイモも、完全にファンタジーの宝物庫じゃん!しかもアキヤがいつもの植物ホルモン理論で言い訳始めてて最高にウケたwww 小春ちゃんのサツマイモスマッシュも毎度キレキレで痛快だし、村中がシロ様を神様扱いして拝んでる光景が可愛すぎる…🥺✨ 世界中が大爆笑&癒やしの渦に巻き込まれてる感じ、めっちゃ伝わってきたよ!このシリーズ、読み込むほどに愛おしくなる〜!💖