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「…………行ってみるか?」
「……でも、どうしようかな……」
花森神社の前で、行くかどうか迷っている瑠衣に、侑は彼女の手を取った。
「…………行くぞ」
「え? せっ……先生!?」
神社の灯籠の明かりが幻想的な参道を、二人はのんびりと歩く。
本殿でお賽銭を投げ入れ、二礼二拍一礼でお参りした後、再び神社の境内を歩き出した。
言葉を交わす事もなく、黙ったまま歩く二人。
仄かな光が侑の顔を照らし、深い陰影を造り出している彼の表情に、冷たくも美しさを感じてしまい、瑠衣は顔を逸らした。
「…………お前……本当はまたラッパが吹きたいんじゃないのか?」
突如質問してきた侑に、瑠衣は身体をビクっとさせた。
「な……何で…………ですか……」
「…………いや、昼間、立川の中倉楽器に寄った時、ディスプレイされていたトランペットを眺めているお前の表情を見てたら、また吹きたいのか、と何となく感じただけだ」
「っ……で……でも…………」
痛い所を突かれて、瑠衣は閉口させていく。
四年間、全く吹いていない瑠衣のブランクは大きい。
音大時代のようには、もう吹けないだろう。
「だけど…………今から練習しても、もう音大在学中だった時のようには吹けないし…………それ以前に…………音が出ないと思います」
瑠衣の答えに彼が困惑したような表情を映し、ため息を吐く。
そこから吐き出された白い息が、外の寒さを物語っている。
「なぁ九條」
ここ最近、時折耳にする穏やかな声音が瑠衣を包み、侑に眼差しを向ける。
「…………もう一度…………吹いてみないか?」