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日曜日の夜。
リビングの時計が、午後10時をまわっていた。
全員が部屋に戻ったあと、
真理亜はひとり、玄関の前で立ち尽くしていた。
胸の奥が、ずっとざわざわしている。
真理亜:(ちゃんと伝えなきゃ)
そう思っていた。
このまま何も言わず、気づかないふりを続けたら、
もっと多くのものを壊してしまう。
そんな中、部屋のドアが鳴る。
駿佑:「……こんばんは。真理亜ちゃん」
来たのは――道枝駿佑だった。
真理亜:「ごめん、急に……ちょっとだけ、話せる?」
駿佑:「……うん」
2人で外に出ると、夜風が心地よく吹き抜けた。
公園のベンチに並んで座る。
しばらくの沈黙のあと、真理亜は口を開いた。
真理亜:「私……駿佑くんに、伝えなあかんことがある」
駿佑:「……うん」
真理亜:「駿佑くんの気持ち、ちゃんと届いてた。最初に告白してくれた時、すごく嬉しかった。でも……今の私の心は、まだ“ひとり”には届いてない。だから、今ここで『付き合おう』って言うことは、できへん。ごめんなさい」
駿佑は、少しだけ目を閉じた。
けれど、返ってきたのは――笑顔だった。
駿佑:「……やっぱ、真理亜ちゃんは優しいな」
真理亜:「……え?」
駿佑:「『誰かを選ぶ』って、簡単やないってこと、自分が一番知ってるはずやのに……俺、どこかで“真理亜ちゃんは俺を選ぶ”って信じたかったんやろな。その期待が、今ちょっとだけ――苦しい」
駿佑の笑顔が、震えていた。
駿佑:「……でも、ちゃんと話してくれて、ありがとう」
真理亜:「駿佑くん……」
駿佑:「俺、まだ諦めるとか、できひんけど……でも、今夜はちょっとだけ、泣いてもええ?」
その言葉に、真理亜はこらえていた涙をこぼした。
真理亜:「うん、泣いてもええ……私も、泣きそうやから」
夜の公園に、静かに響く涙の音。
選ばれなかった夜は、誰よりも切なく、
でも――確かに、二人の間に“真実”があった。
その夜、自室。
駿佑はひとりで歩きながら、空を見上げた。
駿佑:(俺は……もっと、強くなりたい。“選ばれなかった人”として、じゃなく――“また好きになってもらえる自分”になりたい)
彼の涙は、誰にも見せないまま、夜風に溶けていった。