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次の日――。
仕事中だけど、昨日のことを思い出すとモヤモヤする。
<来週また待ってます>とか、どんなつもりなんだろう。
彼女だって本当はいるんじゃない?
かっこ良いのは認める。けれど、その容姿を利用して、騙している可能性もある。
私の中では完全にあの人は<詐欺師>として認定された。
自分のパソコンに向かって、データ入力をしていた時
「ねえ、聞いた?今度異動してくる、朝霧部長って、めっちゃイケメンらしいよ。まだ未婚なんだって。楽しみ」
「そうなの?私、歓迎会の幹事だから、近づけるチャンスじゃん。頑張ってみようかなー」
呑気な話し声が聞こえてきた。
そうだ、今度部長が変わるんだ。
別にイケメンじゃなくてもいいから、まともな人がいいな。公平に仕事を見てくれる人。
今の部長は、お気に入りの社員には優しかったけれど、私みたいなのには冷たいし、厳しい。
そんなことを考えていると
「和倉さん!ちょっと来てくれる?」
心の中で噂をしていた部長に声をかけられた。
「はい」
返事をし、部長席へ向かうと
「これは、なんだね?一文字、漢字が間違っているよ」
バサッと置かれた資料に赤丸がつけられている。
これは、私ではなく同期の葉山さんが作った社内報だ。
「これは私が作ったものでは……」
反論しようとすると
「和倉くんが最後に読み、チェックしている。回覧したのはキミが最後だ。どうして気がつかなかったんだ。人の名前だぞ。失礼にあたるじゃないか?」
回覧は、この部署内の社員が全員確認をするもの。
私が最後だからって、どうしてそんなに責められなきゃいけないの?
「すみません」
これでまた言い返しても、面倒になるだけだ。言いたくもないが、頭を下げ、謝罪をした。
<おい、また和倉。部長に狙われているよ。ストレスのはけ口にされて、かわいそー>
<愛嬌がないって損だよな。あんなことで普通、あそこまで怒られないよ >
私の陰口を言う男性社員の声が聞こえる。
「葉山さんじゃなくて、キミが修正して、再度提出するように」
「わかりました」
どこにデータがあるんだろう、漢字を直すだけだからすぐに終わる作業だけれど、葉山さんに聞かなきゃ。
ああ、人生損してる。
もっと可愛ければ良かったの?
愛嬌があれば良かった?
自分の仕事はきちんとしているのに、他人の分までどうして背負わなきゃいけないんだろう。
「葉山さん、広報のデータ、どこのファイルにありますか?修正したいので、教えてほしいんですが」
同期の女性社員である、葉山さんに訊ねた。
すると
「あれ、どこだったかな。忘れちゃった。探してみるね」
「はい。お願いします」
どうして忘れてしまうんだろう。
保存場所くらい、覚えていないの?
私が帰る前には教えてくれるんだろうか。
終業の時間になり、葉山さんのデスクを見ると、すでに彼女は帰ってしまっていた。
ああ、帰る前にもう一度声をかけておけば良かった。しょうがない、自分で探すか。
部署の共通フォルダの中を見て、一つ一つ探すことにしたが、残業をしてもその日見つかることはなかった。
次の日、彼女に訊ねると
「ああ。ごめん。間違って消しちゃったみたい。どこかにひな形があるから、自分で探して作って」
これはわざと?消しちゃうなんてことある?
まだ時間が経ってないなら、ゴミ箱のフォルダに残っているかも。
希望をかけてクリックしてみるも、データはなく、私は自分の仕事プラス、その週は残業をしながら一からの広報作りをすることになった。
土曜日、何もする気が起こらず、ベッド上でほとんど過ごした。そして日曜日になる。
そう言えば、今日って、あの人が <待ってます>
って言った日だ。
仕事忙しかったし、ストレス解消に猫カフェに行きたいけど、あの人がいるなんてことないよね。もし居たら、どうしよう。余計、ストレスだ。
私のことなんて待っているはずがない。
そう思いながらも、気になってしまう気持ちの方が強く、いつもの猫カフェに向かった。
すると
「えっ」
どうしよう。
あの人が、カフェの外で待っている。
まさか、本当に?
会いたくなくて、時間をわざわざずらしたのに。
待っていると言われた時間より、二時間は過ぎている。
猫カフェに行く道から一旦逸れて、近くのカフェへ入ることにした。
もう少ししたらあの人も諦めてくれるだろう。
スマホを見たり、小説を読んだり、私は時間を潰した。
チラッと猫カフェの方を見て確認しているが、あの人はまだ帰らない。
何時までいるつもりなの?
とうとう夕方を過ぎ、午後十八時になる。
あの猫カフェは、十九時だから、もう入店はできない。なのに、まだビルの前で立っている。
ていうか、私も、あの人のことなんか気にしないで早く帰ればいいのに。
彼のことを気にしてしまう自分に腹が立つ。
窓の外を見ると、傘を差している人が増えた。
もしかして雨が降っているの?
ガラスに水滴が付き始めていた。
いい加減、あの人だって帰るはず。
そう思っていたのに。彼が帰る気配はない。
「もう!」
声を出してしまった。
私はカフェを出て、コンビニへ向かい、傘とタオルを買った。
そして――。
「何時間待っているつもりなんですか?」
びしょ濡れになっている彼に話しかけた。