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戦いの余韻が冷める間もなく、篠田は自らの内面に変化を感じていた。神楽一刀斎――その体を明け渡してから、彼の身体はまるで別人のように感じられる。まるで、剣豪としての記憶や力がすべて自分に宿ったような感覚がある。その力は無敵を誇るものだが、それと同時に、自分を支配しようとする不安定な力にも思える。
「篠田、大丈夫か?」鋼谷の声が響いた。視線の先には、篠田の顔色が悪化し、額に冷や汗を浮かべている姿があった。
「なんでもない。」篠田は答え、呼吸を整えようとする。異常なエネルギーが暴れ回っているのを感じずにはいられなかった。
神楽一刀斎の力はあまりにも強力すぎる。篠田は彼にその体を明け渡してから、少しずつその力に飲み込まれつつあった。それは単なる肉体的な力だけではない――意識、記憶、気持ちがすべて混ざり合い、篠田は自分自身を見失いそうになっていた。
「神楽一刀斎……お前、まさかこんな力を使って俺を試しているのか?」篠田は心の中で問いかけた。だが、その答えは得られなかった。神楽一刀斎はもはや生きていない。ただ、彼の意識だけが篠田の体に宿り、己の力を強制的に呼び覚ますのだ。
「篠田、もう一度冷静になれ。」鋼谷が再び篠田に声をかける。
「冷静になってるつもりだ。」篠田は振り返ると、鋼谷の顔に向かって冷徹な笑みを浮かべた。その笑みには、もはや篠田らしさは感じられなかった。それはまるで、神楽一刀斎そのものが篠田の中で目を覚ましたような笑みだった。
突如として、篠田の体が震えだす。その震えは単なる興奮からではない、肉体が異常な力に反応し始めたことによるものだった。手のひらに力を込めると、指先に鋭い痛みが走り、爪が徐々に伸びていった。
「な、何だ…これは…?」篠田は驚愕した。彼の体は、まるで自分の意志ではないところで動き出している。神楽一刀斎の遺志が強すぎて、篠田の意識はその支配下にあるのだろうか。
「篠田、落ち着け!」鋼谷は手を伸ばし、篠田を抑えようとするが、篠田の体から放たれる気配にその手は届かなかった。
「お前が倒したのは、クローンだ。冥王の本体はフィリピンにいる。それを頭に入れておけ。」鋼谷の声が響くが、篠田には耳を貸さなかった。
その瞬間、篠田の目が鋭く光り、神楽一刀斎の残した力が暴走を始めた。彼の肉体は全力でその異能を引き出し、周囲の空気が一瞬にして歪んだ。
「これが神楽一刀斎の力か…。」篠田は呟いた。その力はもはや、単なる肉体の域を超えていた。神楽一刀斎の剣技は、世界の常識を凌駕するほどの速度と精度を誇っていた。その力が篠田の中に宿ったことで、篠田はその力をも引き出そうとしていた。
しかし、その力の暴走は、篠田が制御できるものではない。彼は自分の力を恐れ、どうにかその暴走を止めようとしたが、神楽一刀斎の意識が支配する体は、もはや篠田の意志を無視して動き出していた。
「行くぞ、鋼谷。」篠田は言い放つ。目には、かつての篠田の面影はなく、ただ神楽一刀斎の意志が色濃く映し出されていた。
鋼谷は一瞬ためらうも、篠田の体から放たれる凄まじいオーラに圧倒される。篠田は無意識のうちにその力を解放し、何もかもを切り裂こうとしている。
「止める方法があるのか?」鋼谷が問うが、篠田は答えなかった。
その時、篠田の中で神楽一刀斎の力が爆発的に放たれ、彼の体は一瞬で周囲の空気を震わせ、次の瞬間には戦場の中心にいた。
彼の目の前には、冥王のクローン――遺体がただ一つ、静かに横たわっていた。篠田はその体に目を向け、神楽一刀斎の意志を感じ取った。
そして、彼は新たな決意を胸に、フィリピンへ向かう準備を始めるのだった。