テラーノベル
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非常灯の赤い回転が、血に濡れたサーバー室を不気味に染め上げる。
特殊部隊のブーツの音が近づく中、俺は静かに膝をついた。
極限まで張り詰めていた糸が切れ、全身の傷口から熱が奪われていく。
「……兄貴!兄貴、しっかりしてください!」
瓦礫を掻き分け、山城が駆け寄ってくる。
その後ろには、銃を下げた志摩の姿もあった。
奴は沈黙した『ヤタガラス』を一瞥し、短く吐き捨てた。
「……物理破壊か。お前らしい、最悪で最高の後始末だ」
阿久津は、特殊部隊に組み伏せられながらも、虚空を睨んでいた。
力ですべてを支配しようとした男の末路は
皮肉にも、力によって完全に封じ込められるという皮肉な結末だった。
「志摩…これで、この国は……」
「ああ。計画は凍結された。神崎がバラ撒いたデータも、今の衝撃でゴミ屑だ」
「…だがな黒嵜、お前はもう『公式』には生きていちゃいけない人間なんだよ」
志摩の言葉の意味は分かっていた。
これほどの大事件に関わった元極道。
生かしておけば、今度は国が俺を消しに来る。
「……分かってる。最初から、そのつもりだ」
俺は山城の肩を借りて立ち上がった。
志摩は、俺たちに背を向け、特殊部隊の指揮官に向かって
「容疑者は逃走、地下道は崩落の危険あり」と嘘の無線を飛ばした。
「……行け、黒嵜。新宿のゴミ溜めから、誰も知らない場所へな」
◆◇◆◇
一週間後───
東京から遠く離れた、名もなき港町。
俺は、潮風に吹かれながら、一振りのドスを海へと投げ入れた。
親父が遺し、俺の命を繋ぎ止めてきた鋼。
それが波間に消えていくのを見届け、俺は深く息を吐いた。
ポケットの中には、新しい身分証と、志摩が密かに用意したわずかな路銀。
そして、拓海の子供から届いた、たどたどしい文字の手紙が入っている。
『いつか、いっしょに うみを みたいです』
俺は歩き出した。
名前を捨て、過去を捨て、ただ一人の男として。
この先に待っているのが、どんな地獄だとしても、俺の心にある「筋」だけは、誰にも奪わせない。
新宿の夜は明け、新しい一日が始まる。
俺の物語は、ここで一度幕を下ろす。
――だが、俺の歩む道は、未だどこまでも続いていく。
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